ここじゃないどこかへ。
高ければいいの。
希望も持たせてくれないくらいに高ければ。
鬱陶しいネオンの明かりは眠らない夜の街を無理にでも照らすものなのだと。
荒い呼吸のまま、とあるビルの屋上へ。
覗き込んだネオンの街は、高いところから見るとぞっとするほど暗かった。
「…ストップ」
覚悟を決めて、柵にかけた手。
背後から響いた声にいとも簡単に止まってしまった。
なのに。
あの日、俺をこの世界に繋ぎ止めたのは彼なのに。
────そんな彼は今日も目を覚まさない。
なにが、俺の分まで生きろ、だ。
俺が生きていた意味は彼だったんだ。
あんたがいなくなった世界なんて生きる意味もない。
あの日と同じように高いところを目指して走った。
あの日と違うのは、ぽっかりと空いた心と、柵に手を掛けても彼の声が聞こえてこないことだ。
─高く高く─ #94
生きる意味は、あるのだろうか。
最近そう考える時間が前よりも増えた。
望んでもないのに作り出されて、時間になったら有無を言わせず死んでいく。
じゃあ生きる意味なんてどこあるの。
笑い方はとうの昔に忘れた。
泣き方も知らない。
ただ無感情で無意味な呼吸を繰り返すばかり。
ああ、知らぬ間に空いた心の穴が痛い。
子供のように、なんて。
それができたらどれほどいいだろう。
─子供のように─ #93
(久しぶりにちょっと息抜き。こうやって発散できるから自分が保ってるようなもんだなぁ。個人的には、誰もいない海へ思うままに叫んでる感覚に近いです)
「……すき」
言ってから、気づく、なんて。
放課後のふたりだけの教室にて。
気づいたら、ぽろっと口から零れた「すき」の一粒。
かすかに開いた彼の瞳に綺麗だな、とか思えたのはどこか他人事のようにこの状況が思えたからかもしれない。
…あ、僕、この人のことがすきなんだ。
言ってから、口にだしてから、すとんと府に落ちたこの恋心。
「なんで、泣くの」
口下手な彼が気遣ってくるのが伝わる。そう言われてから、自分がぼろぼろ涙を流していることに気づいた。
「っ、あ、あれ、なんで、」
慌てて袖で目元を拭う。戸惑ったように伸ばされた彼の手から、優しさから逃げるためだったか、少し身を引いた。
「あ、はは。どうしよ、おもしろいくらい、止まんない、や」
「おもしろいくらいって…、別に笑って流そうとしなくても…」
笑って笑って、笑え。
そう思えば思うほどに、心臓が締め付けられる。涙が増してしまう。
そんなとき、ふわっと教室に入ってきた涼やかな風が頬の涙を拐ってきた。
「わっ、ちょ、」
と、同時に風で捲れたカーテンが僕と彼をふたりの世界に連れ出していく。
遠くで聞こえる廊下の足音が、外の部活の音が、やけに遠く感じた。
カーテンの内側に隠されたこの世界には、僕と彼のふたりだけ。
「こういうのって、言われてから言うのってずるいかもしれないけど、────…すき、だよ」
閉じられた、静寂の世界で。
「……え…」
「さっき言ってた“すき”、は俺のすきと同じ類い…?」
透けるような空の色が、綺麗だった。
この距離で伝わってくる心音に、気づいたら小さく何度もうなずいていた。
「よかった、うれしい」
「~っ、」
緊張した、とでも言うように、ふわりと笑った彼。
刹那、破裂しそうな心音が、ほんのり熱い体温が、ぜんぶぜんぶ伝わってきた。
「…ん、」
「ねえ、好きだよ」
放課後の教室、ふたりだけの閉じられた世界にて。
─放課後─ #92
(昨日のカーテンの話に乗っ取って書くしかないな、と。笑
カーテンの内側の世界書いてみました。昨日の子は最後のシーンを目撃したのでしょう。今日の話、明るいほうなのに、それを考えるとなんだか切ないな…)
放課後の教室にて。
「…ん、」
「ねえ、好きだよ」
どくん、と心臓が握り潰された音がした。
望んでいた言葉なのに、どうしてこうも違うの。言う相手が違うと、心音だって音は同じでも全然違うんだ。
忘れ物を取りに来ただけだった。
なのに、それなのに、なんで。
教室に踏み込めるわけもなく、教室の外で結果的に盗み聞き。
ちらりと見えたのは、揺れるカーテンの向こうで重なった影だった。
カーテンの向こうで、僕とはカーテンで区切られた近いのに遠い世界の向こう側で。
みたく、なかった。
知りたくもなかった。
僕は一生その向こう側の世界にはいけない。
やけに遠いカーテンの向こう側だ。
─カーテン─ #91
“好き”になったのはいつだっただろう。
物心ついたときにはいつも一緒で、親友だった。
今考えてみるとたぶんそれは依存。
きみがとなりにいないと寂しかったし、自分でも引くくらい執着していた。
ある日クラス替えでクラスが離れ離れになって、でも親友だからって当たり前のように一緒に行ったり帰ったりしていた。
「お前、ちょっとうざい」
そしてその日は待ち合わせの昇降口になかなかこないから教室まで迎えにいった。
きみが僕以外の人と楽しそうに話していて、裏切られたみたいに思って、そのとき初めて独占欲を意識した。
そしてそのとき言われた言葉がそれだった。
“お前、ちょっとうざい”
心臓を抉られた。
親友じゃなかったの?なんで僕を後回しにするの?なんで、なんで…?
…いままでもずっとそうやって思っていたの…?
ボロボロに泣いて、結局うざがられて終了。
挙げ句の果てに、迎え来た僕を教室において、僕の手を思いっきり振り払って、帰っていった。
それ以降関わりづらくなって、近づこうとするだけでもさりげなく避けるようにどこかに行ってしまう。
僕だけ、だったの…?
きみがいないと生きれないのは、寂しいのは、苦しいのも、僕だけ…?
学校を休んだ。
一回休むとずるずると休みが続いて、気づいたら学校に行けなくなっていた。
僕はきっと異常なんだ。
人より独占欲とかそういうのが強くて相手に精神的に害を与えてしまう。
人と関わらないほうがいいのかもしれない。
そう思ったらいつのまにか家から出られない体になっていた。
「…おい、起きれる?」
ある日。
久しぶりに聞いた声に体が強張った。
…うそ。ここ、僕の家だよ…?僕の部屋だよ…?
僕のことうざいと思っていたんでしょ?嫌いなんでしょ?
じゃあ関わってこないでよ。
ボロボロと涙が零れるのは、ぜんぶぜんぶ自分のせいだ。
─涙の理由─ #90
(久しぶりに小説書いてみたら収拾がつかなくなった。なにが書きたかったんだろうか。小説書かなかったこの二週間結構重いかも)