しずく

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「……すき」
言ってから、気づく、なんて。

放課後のふたりだけの教室にて。
気づいたら、ぽろっと口から零れた「すき」の一粒。
かすかに開いた彼の瞳に綺麗だな、とか思えたのはどこか他人事のようにこの状況が思えたからかもしれない。
…あ、僕、この人のことがすきなんだ。
言ってから、口にだしてから、すとんと府に落ちたこの恋心。
「なんで、泣くの」
口下手な彼が気遣ってくるのが伝わる。そう言われてから、自分がぼろぼろ涙を流していることに気づいた。
「っ、あ、あれ、なんで、」
慌てて袖で目元を拭う。戸惑ったように伸ばされた彼の手から、優しさから逃げるためだったか、少し身を引いた。
「あ、はは。どうしよ、おもしろいくらい、止まんない、や」
「おもしろいくらいって…、別に笑って流そうとしなくても…」
笑って笑って、笑え。
そう思えば思うほどに、心臓が締め付けられる。涙が増してしまう。
そんなとき、ふわっと教室に入ってきた涼やかな風が頬の涙を拐ってきた。
「わっ、ちょ、」
と、同時に風で捲れたカーテンが僕と彼をふたりの世界に連れ出していく。
遠くで聞こえる廊下の足音が、外の部活の音が、やけに遠く感じた。
カーテンの内側に隠されたこの世界には、僕と彼のふたりだけ。
「こういうのって、言われてから言うのってずるいかもしれないけど、────…すき、だよ」
閉じられた、静寂の世界で。
「……え…」
「さっき言ってた“すき”、は俺のすきと同じ類い…?」
透けるような空の色が、綺麗だった。
この距離で伝わってくる心音に、気づいたら小さく何度もうなずいていた。
「よかった、うれしい」
「~っ、」
緊張した、とでも言うように、ふわりと笑った彼。
刹那、破裂しそうな心音が、ほんのり熱い体温が、ぜんぶぜんぶ伝わってきた。
「…ん、」
「ねえ、好きだよ」
放課後の教室、ふたりだけの閉じられた世界にて。



─放課後─ #92

(昨日のカーテンの話に乗っ取って書くしかないな、と。笑
カーテンの内側の世界書いてみました。昨日の子は最後のシーンを目撃したのでしょう。今日の話、明るいほうなのに、それを考えるとなんだか切ないな…)

10/12/2024, 1:52:05 PM