始まりがあるからには終わりがある。
「頭では、理解してたんだよ」
そう唇を震わせたきみの手をとって、きみが安心するような言葉を投げ掛けたかった。
涙が零れそうな目元を拭って、笑いかけてみかった。
「…ごめん」
力なく放った言葉は酷く頼りなくて震えていた。
人の生は遅かれ早かれ終点というものにつくのだ。それは俺だって理解している。
俺はただ単にその道のりが短かっただけ。
「なんで、なんで」
ごめん。どうしたって自分じゃ止められない。
「生きてるじゃん、生きてるでしょ。なんでなんで死ななきゃいけないの…っ」
ごめん。
たぶんきみは僕に謝ってほしいわけじゃないんだろうけど、今はそれしか言えなさそうだ。
「自ら終点をつくらなくたっていいじゃん…っ」
ごめん。
ふ、と笑ってみせて、腕が掴まれる力が怯んだところで、俺は無事に暗い海に体を沈ませた。
─終点─ #29
たぶん、人の性格というのは生れ育った境遇で固まっていくのだと思う。
だから今更、外から「上手くいかなくたっていい」なんて言われても、
それができたら、こんな生き方してないじゃんね。
だから、「上手くいかなくたっていい」なんて頭で思うことはできても、こころのどこかではその言葉が白々しく思えてしまうのだ。
─上手くいかなくたっていい─ #28
蝶よ花よと育てるのってあまりにも無責任だと思う。
自分の子供の将来を本当に考えているなら、尚更だ。
かといって、全部否定するみたく暴力的に当たられるのも、
放棄するみたく冷たく育てられるのも、
ある程度の愛を注ぎ込まれるのも、
結局は満足しないんだろうなって。
なんて自分は我儘な親不孝者なんだろうと思った。
─蝶よ花よ─ #27
最初から決まりきっていた。
私たちは生まれては死んでいく。
誰しもが分かっている。
それでも人が死ぬと悲しむ。
正直、なんの意味があるのだろうか。
生まれては死んでいく。
何十年もたてば、もう何も残らない。
縋っては無情にも消えていく使い捨ての人生だ。
そんなものの何十分の一の一瞬を気にしたところでどうなる。
使い捨てだと最初から決まっている人生なら、
何十年後には何も残らない人生なら、
やりたいことやったもん勝ち。
─最初から決まってた─ #26
その太陽みたいな彼は、私にとって眩しすぎた。
無邪気な明るさは私の心を蝕んでいく。
お願いだから、こっちを照らさないで。
照らされる度に自分の汚いところが浮き彫りになる。
照らされる度に罪悪感が募る。
そんなふうに笑いかけてもらえるほど、
私はできた人間じゃない。
どうしてこっちを照らすの。
分かっているのに。
私はきみの隣にいていいほど綺麗な人間ではない。
分かっている。
もう来ないで。
きみの光を浴びていると、心が暖かくなって
溺れてしまいそうになるんだ。
お願いだから、もう来ないで。
─太陽─ #25