十二時の鐘と同時にきっと私は消える。
そう言った彼女の儚げな笑顔に、
どこかの童話みだいだ、と思った。
どうして、どうしてそんなことが分かるというの。
彼女の心臓の音が伝わってくる。
彼女はこうして今も生きていて、
それが一生続けばいいのにとか思ってしまった。
確かに未来に保証なんてないから、
今を大切に噛みしめた。
…ああ、これで何人目だ。
どうしてどうして。
僕と関わった人は皆この世界から消えていく。
彼女は違うと思ったのに。
美しい鐘の音と引き換えに
気づけば僕はまたひとりになった。
─鐘の音─ #24
きみとなら、つまらないことでも幸せを感じられたのに
─つまらないことでも─ #23
何度も何度も願った。
これが夢ではないことを。
もし夢なのだとしても、覚めない夢だってあるってことを。
だけど、それは届かずに終わってしまった。
目が覚めるまでにやりたかったことがたくさんある。
例えば、例えば……
あれ?
俺、なにがやりたいんだっけ。
こんなところで、ひとりでなにをしていたんだろう。
─目が覚めるまでに─ #22
藍色の空にぽっかりと穴が空いたように浮かぶ、白く光る儚げな月をぼんやりと窓越しに眺めていた。
白で設えられたここに慣れてどのくらい経つのだろうか。
こころがこんなにも痛むのは、知らぬ間に浮かんだあの月のようなこころの穴のせいだ。
─病室─ #21
「どうやって返すのが正解だったんだ…」
今日やるべきことを終わらせて、ベッドに転がりますながらふと今日のことを思い出す。
久しぶりに会えた高校のときの友人と時間を忘れて遊んだ。
もちろん数年の空白を隔てていて会う前は少し不安だったが、そんなものは気づいたらなくなっていた。
ただただ楽しかった。あの頃みたいに、また笑いあえた。
別れ際にあんなこと言われるまでは。
───もし明日を晴らせるんだったら、お前の明日がほしい。
一瞬何言ってるのか脳が理解できなかった。
ようやくそれを噛み砕いて自分の中での結論として出た意味は、明日がいい天気なら明日もこうやって遊びたい。
戸惑いながらも、俺も、と答えるとなにか違ったらしくごめんと謝ってきた─────、
「なー、今日の最後のあの台詞なんだったの?」
なんだか後味が悪くて寝つけることができなかったので、軽い気持ちで電話をかける。
スマホの向こうからは少し物音が聞こえて、それから波打ったように静まり返った。
『…今日の、最後の台詞?』
「なんだっけ。明日を晴らせるなら、俺の明日がほし、い、…と…か…」
語尾が小さくなって、手からスマホが滑り落ちそうになったのは、口に出してみて頭のなかで急にパズルのピースが組合わさっていくような、頭のなかの世界が反転したかのような感覚に陥ったからだ。
俺の、明日がほしい。
いやいや、と頭を横に振る。そんなわけない。こいつが俺に対して言う意味じゃない。解釈違いだ。
今日その場で考えた意味も、ここで今俺が思ったこともきっと解釈違い。
「あ、あのさ、あれ、どういうこと、かなって」
途切れ途切れになる。ばくばくと心臓が高鳴っていることに気づいてしまった。
昔からそういう詩的な言葉を使う奴だった。
もし、俺が思っている意味だとすると。
明日に保証はないから、明日をはっきりさせられたら、明日もその明日も────…、
『…意味自体伝える気はなかったからそんな気にしないでほしい。久しぶりに会えて良かった』
俺が意味に気づいたことが伝わっていたらしい。
ただただツーツーという無機質な電子音に包まれる。
余計に眠れなくなってしまった。
気付けば薄暗い部屋が窓から白み出していた。
─明日、もし晴れたら─ #20