だからひとりでいいって言ったのに。
気づくときみは僕のとなりにいた。
どれだけ無視しようが、きみは僕に絡んでくる。
「僕はひとりがいい」
「どうして?」
「どうしても」
人間は思っている以上に弱い生き物だ。
ふたりでいることに慣れてから、ひとりに戻ると、もともと抱いていた寂しさより、虚無が増す。
ひとの温もりを求めて虚無が増すひとりより、もともと温もりを知らないひとりのほうが僕はいい。
なのに、そう思っていたのに。
きみの温もりを求めているのは紛れもなく僕だった。
それから十年。
…ああもう。だからひとりでいいって言ったのに。
─だから、一人でいたい。─ #19
やめて。
そんな澄んだ瞳で僕を見つめないで。
きみは僕の唯一の眩しい太陽。
だけど、きっとそれは眩しすぎたんだ。
目を細めないと視界にも入れることができない。
きっと僕はきみの隣にいていい人間じゃない。
ほら。またそうやって。
澄みきった瞳に僕を写すから。
また僕の汚い部分が浮き彫りになる。
─澄んだ瞳─ #18
この雨が大雨に変わって、その大雨で嵐が来ようとも。
あの重い雲の向こうは、必ず晴れている。
止まない雨はないと言うけれど、嵐だって同じ。
嵐は激しくて怖いけれど、それがずっと続くわけじゃない。
だって、あの雲の向こうはいつだって晴れているのだから。
─嵐が来ようとも─ #17
「お祭り以外でも会いたい、とか思ったり、して」
きゅっと手を握る。
苦し気に落とされた返事は、ごめん、だった。
「もうこれからのお祭りでも会えない」
「え?」
年に一度だけ。
なのに、それすらもなくされそうになるなら。
…欲張んなきゃ、よかった。
「ごめん。俺、もう時間なかったんだ」
どういう意味?と開きかけた唇。
目があった君の姿を見て、震えた。
どうして、なんで。
でも、全てが全て繋がって理解してしまった。
ああ、だから。
体温がひんやりして涼しげなのも、
透き通るような雪色の肌も、
毎年見るたびに変わらないその背丈も、
そういうこと、だったんだ。
だから、お祭り以外では会えなくて、これから会えなくなる理由が時間がない、なんだ。
じゃあね、と透ける唇が紡いで。
いかないで。いかないで。
慌てて腕を掴もうとした手は、ひんやりとした体温を感じることなく、空を切った。
つうっと伝った透明な涙はお祭りの賑やかな明かりを閉じ込めるように写していた。
─お祭り─ #16
死にたい。世界中の人間がいなくなればいい。
少年が口走ると、同時に堕ちてきたのは神だった。
「私が折角生み出してやった命───」
粗末にするでない。それは少年の耳に届いたのか。
黒で塗り潰された少年の瞳にはどう写ったのだろうか。
「はっ。生み出してやっただ?…笑わせんな。
────これでもう人間が生み出されることはないな」
自宅での自殺を実行する直前だった少年は生まれて初めて満たされる、という感情を知った。
神がいなくなった世界は闇へと滑り落ちていく。
少年はすでに真っ赤にまみれた包丁を躊躇いなく自分の胸に突き立てた。
どちらにせよこれからの未来、人間が作り出されることはないだろう。
─神様が舞い降りてきて、こう言った。─ #15