小さなたった一つの命をうけた。
私にとってそれは尊ぶべきものであり、同時に、卑しむべきものでもあった。
そこに確かに存在していて、無いもの。
どう大事にしていいのか分からなくて。
とりあえずそっと撫でてみた。
私にしかない、私にしかできない。その命を全うすることを心に決めて、外に踏み出した。
ずっと会いたいと願ってた。
全力で、自転車で坂を駆け下りていく。
風になびく髪やワイシャツも、今はいらないとさえ思えた。
ずっと好きだったから、ずっと好きだから。
エゴにも近い想いで、ひとつの道を走る。
ただ君に、会いたかったから…。
気が付いたら京都タワーの1番上に立っていて、僕は思わず「わ」と声を上げてしまった。
そこにはもう1人いて、僕らはまるで夢の中で夢を見ている感覚になった。
「知ってる?私達みたいに夢を駈ける人達の事を、ルシャレヴィっていうの、知ってた?」
彼女がいたずらっ子のように笑いながら、でもどこか悲しそうに告げた。
「知らない!るしゃ…れゔぃ…?どういう意味?」
「じきに分かるよ!着いてきて!」
そう言って彼女は夢の中を風のように飛んでいった。
好きな人とわかれた。
「わかれた」って言っても、帰る場所が違うのだから「わかれる」のは当然の話で。
くっついて、ずっとこのままいられたらいいのに。
そう思って、さっきまであたたかかった、それ、に触れた。
冷たくて、ひんやりしていて、もうそこには好きだったものはなくて。
ずっとこのまま
ずっと続けばいいのに
そういえば今日はどんな月だったか
もう何年も夜の空を見上げる、という行為をしていない気がする。
ふとそう思って
ネットで月予報を確認して
真っ暗な闇の中空の光だけを頼りに歩を進める
今日の月は三日月。
明日の月は…何を映しだすだろうか。
ただ見上げて息をするだけ。
またね
そう聞こえた気がした。