友情
ボクはキミと出会えて、とても嬉しかった。
嬉しかったのに、キミはひどいことをした。
ひどいことをしてしまったことの事情を
キミはずいぶん長い間、ボクに話してくれなかった。
ボクと島へ旅行したいとキミは誘い、
夜の海の波打ち際で共に素足になると、
やっと話してくれた。
こんな話信じないだろ、オマエは。
信じがたいけれど、信じるしかない。
……信じて、くれるんだ?
内容は信じられないけれど、キミを信じたい。
……オマエ……強いな。そういう、オマエにだから話せた……。
キミは泣いていた。
あの日のボクも泣いていた。
ボクはキミと同じ立場になっても、
キミのようにはできなかっただろう。
ボクがひどいことをされたことは変わらないけれど
キミが事情を、理由を、秘密を明かしてくれたから
ボクは砂まみれの足を海ですすいだ。
キミは海で顔をすすいだ。
ボクたちはこれまでも、これからも……
子どもの頃は、貴方を大きな人だと思っていた
大人になって、恋人になって、貴方に勝って
思っていたよりも、ずっと脆いと気がついた
貴方も、そしてボク自身も
それからは、優しくなりたいと思った
病めるときも、健やかなるときも、貴方を守って
思っていたよりも、ずっと永く一緒にいると決めた
貴方はどうか、一生ボクに追いついてきて下さい
初恋の日
僕たちは海を越え
フィールドを走り回った
帰国の前夜 帰りたくなかった
いつまでも このままでと
あれから四半世紀
僕たちは何も変わらなかった
むしろ連帯は深まった
強く 優しくもなれた
あの夜からも
これからの朝も
……キャプテン
あんたが好きです
ないものねだり
本当は既に とても幸せなのだ
自分で選んだ競技で海を渡った
望まれてゴールを守っている
同室の彼の寝顔に 期待をしている
フィジカルな意味でも
メンタルな意味でも
カーテンの向こうに 新しいプリズム
実家の道場での稽古がなくとも
いつもの時間に目が覚める
朝のひとときに 見つめている
彼を見つめながら
彼を望む自分を見つめている
大好きなきみに
「事件でも急用でも、無い、と?」
紅薔薇の狐の訝しげな声が、安堵に変わり、最後に甘く潤ったと電話越しに感じた。儂の願望だろうか。
「そうじゃ、今日の題目は『大好きなきみに』なのだ」
「だからオレに電話を?」
「『大好きなきみに電話する』しか思いつかなかった」
「……仕事の状況は?」
「……山積みだ。すまん、切る。叱られたくて甘えたな」
「あ、待って。野暮な質問をしてしまいました。困ったな、聞かなければよかった。オレの方こそ、すみません……」
狐はもう一度、困ったなと繰り返した。
今すぐ会いたくなってしまいます。
その声は甘かった。
儂の願望ではなく、本当に甘かった。