くりゆうなお

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大好きなきみに

「事件でも急用でも、無い、と?」
 紅薔薇の狐の訝しげな声が、安堵に変わり、最後に甘く潤ったと電話越しに感じた。儂の願望だろうか。
「そうじゃ、今日の題目は『大好きなきみに』なのだ」
「だからオレに電話を?」
「『大好きなきみに電話する』しか思いつかなかった」
「……仕事の状況は?」
「……山積みだ。すまん、切る。叱られたくて甘えたな」
「あ、待って。野暮な質問をしてしまいました。困ったな、聞かなければよかった。オレの方こそ、すみません……」
 狐はもう一度、困ったなと繰り返した。
 今すぐ会いたくなってしまいます。
 その声は甘かった。
 儂の願望ではなく、本当に甘かった。

3/4/2024, 11:54:54 AM