カラツネ

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12/8/2024, 5:40:21 AM

「部屋の片隅で」

父と母はいつも姉にだけ優しくしていた。私は、それを部屋の片隅でじっと見ることしかできなかった。時折、父と母は私と目が合うことがあったが、それは私への愛情からではなかった。なぜなら、両親はすぐに怯えた顔をして目をそらしていたから。私は子供ながらに、それが私への愛がないということを理解していた。

思い返せば、私が小さな頃は、まだ父と母と姉と私の4人で楽しく遊んでいた記憶がある。私が小学校を入学したぐらいからだろうか。姉が私のことを避けるようになった。それから父と母も、私に話しかけなくなった。私は嫌われるようなことをした覚えはなかった。

なんで私だけこんな扱いなの?
私も姉のように愛されたい
私が愛されないのは、姉が居るせいだ

いつからか、私の中では姉への憎悪が生まれ、居なくなって欲しいと強く願うようになった。

「お姉ちゃんなんか大嫌い、消えちゃえばいいのに」
私は、部屋の片隅でうつむきながら小さく呟いた。

カチカチ、カチカチ。
突然部屋の電球が点滅し始めた。それと同時に、父と母と姉が怯えた顔で私を見てきた。

「んぐ、ぐああああ、くる、しい。助け、て。」
突然苦しみ出す姉。息ができないのか、自分の手で首を掴み、目は飛び出そうなくらい不気味に見開いている。まるで陸に上げられた魚のように、床の上をじたばたとしている姉に、父と母は泣き叫ぶことしかできなかった。

11/24/2024, 8:43:00 AM

[落ちていく]

ここは東京ツリータワー。最近できた世界最大の高さを誇る展望台だ。

「そこのお兄さん、この穴から手を出して、窓の外に落ちていくものをキャッチできたらアナタのものデ〜ス」
「チャンスは3回。3回とも違うものが落ちてくるけど、どれもアナタが欲しいものが落ちてくるデ〜ス」
「やってみるデ〜スか?」

展望デッキを1人でイライラしながら歩いてると、ピエロのような白い化粧に、いかにもヤバそうな口調の奴が話しかけてきた。窓を見ると、手が1本出せるくらいの小さな穴が空いている。

「景品は100万円くらいの価値はあるんだろうな?それならやってやっても良いぜ」

俺は、鼻で笑いながら挑発的な態度でピエロに聞いてみた。

「もちろんデ〜ス。100万円どころか、値段を付けれないほどの価値があるものデ〜ス」

「ほう?それで、そのゲームをするのにいくら必要なんだ?」

「無料デ〜ス。お金はいりまセ〜ン」

「ふっ、景品が100万円以上の価値があるというのに、ゲーム代を取らないとか、お前は馬鹿なのか?」

「まぁ、いいや。それじゃ、1回やらせてくれよ」

実は言うと、俺は彼女とのデートでここへ来たんだが、途中で喧嘩してしまい、仕方なく1人で観光をしていた。そんなときに、100万円以上の価値があるものを掴めたら、俺にくれると言ってるんだから、これはもうやるしかないだろう。本当にそれだけの価値があるなら、たとえ彼女と喧嘩したことでさえ、忘れることができるからな。

「OKデ〜ス」
「では、1回目の景品を紹介するデ〜ス。窓の外の上の方を見るデ〜ス」

俺は、ピエロに言われた通り上の方を見てみると、屋上からマジックハンドで女性のパンツが掴まれているのが見えた。

「景品ってあのパンツのことか?」

「イエ〜ス。そうデ〜ス」

確かに俺も男だ。女性のパンツが欲しいかと言われれば、まぁ、欲しい。しかも、つい数分前に彼女と別れたばかりだ。本当は夜までデートして、その後、Hなことができたらなんて妄想をしてたからな。だがここは、流行りの東京ツリータワー。周りを見渡せば、カップルやら、家族やらで人がわんさか居る。そんな中でパンツなんか掴めるかよ。くだらない。

「どうしたんデ〜ス?やらないんデ〜スか?」

しばらく頭の中で考えごとをしてたら、ピエロが話しかけてきた。だがそんなことより、周りの連中が景品を見ながらクスクスと笑い始めている。俺はそれがどうも気に入らない。

「念の為確認しとくが、これは本当に100万円以上の価値があるものが落ちてくるんだろうな。」

俺は周りに聞こえるように大きく言った。あくまでもこの後、100万円以上の価値があるものが落ちてくるということを、周りの笑ってる連中に教えるために。

「もちろんデ〜ス」

「わかった。それならやってやる」

「では窓の外に手を出すデ〜ス」

「3、2、1、落ちるデ〜ス」

ピエロの変な掛け声とともに、景品のパンツがヒラヒラと舞って落ちていく。しかし、風に飛ばされて、俺の手のあるところとは別の方向へ落ちていった。

「oh、ソーリーデ〜ス。こんなことが起こるなんて想像してませんデ〜した」

「ああ、全然気にしなくていいよ。想定外のことなんて良くあるからね」

俺は紳士な態度でピエロに応えてやったが、正直なところ、女性のパンツを人前で取って、それをカバンに入れて持ち帰るなんて恥ずかしいから、風で飛ばされて良かったと思っている。

「おお、お兄さん優しいデ〜スね。それじゃあ気を取り直して、次の景品見せるデ〜ス。上を見るデ〜ス」

俺はピエロに言われた通り上を見た。今度はマジックハンドの先に、女性のブラジャーが掴まれていた。そして、景品を見た周りの連中が、また笑い始めた。

「早く始めてくれ」

俺は3つ目の景品に賭けることにして、ここは適当にやり過ごすことにした。

「3、2、1、落ちるデ〜ス」

今度はパンツとの時と違い、ブラジャーに重みがあったのか、ストンッと俺の手の上に落ちてきた。しかし、俺はワザとそれを落として、悔しがってみせた。

「oh、お兄さん、今わざと落としたデ〜スか?」

「いやいや、緊張して手が滑ってね。予想外のことだから仕方ないよ、ハハッ」

「それは残念デ〜スね、次は取れると良いデ〜スね」

「そうだな、次こそは頑張ってとるぞ。なんたって100万円以上の価値があるんだからな。さあ、次の景品を見せてくれ」

「了解デ〜ス。最後の景品をお願いするデ〜ス」

今度はこれまでと違い、景品が出てくるのに時間が掛かった。そして、ゆっくりと人の足が見え、おへそ、胸と見えたところで、景品が裸の女性であることがわかった。

「もっと下に景品を下げるデ〜ス。ちゃんと見えないデ〜ス」

ピエロの指示でマジックハンドがプルプルと震えがらゆっくりと下げられていき、やがて女性の顔が見えた。

「えっ、嘘、だろ?」

俺は目を疑った。何故ならそこに居たのは、つい数分前に別れた彼女の姿があったから。彼女の目には、この世のものとは思えない程の、絶望した目と、恐怖から滲み出てくる涙が流れていた。

「や、やめてくれ!」

俺は慌ててピエロにゲームを止めるように呼びかけた。

「それはできないデ〜ス。このゲームは、参加は無料デ〜スが、途中で止めることはできないデ〜ス」

俺は、そこでようやくことの重大さに気がついた。100万円の価値を無料で獲得できるなんて、そんな旨い話、おかしいに決まっていたんだ。

「速くしないと景品落ちちゃいマ〜ス♪」

俺は慌てて窓の外に手を伸ばした。

「3、2、1、落ちるデ〜ス」

ピエロの掛け声とともに落ちていく元彼女。俺は必死に彼女の手を掴んだ。掴んだはいいが、どうやって建物の中に入れたらいいんだ。

「お、おいピエロ。景品は掴んだ。もう俺のもんでいんだよな。早く彼女を中に入れてやってくれ!」

「oh、ソーリーデース。中に入れることまでは考えてませんでした。想定外デース。許してくだサ〜イ」

「だ、誰か助けてくれー!」

俺は必死に叫んだ。だが誰も助けてはくれなかった。というより、誰も助けようがないのだ。そして、彼女の顔を見る。彼女は俺の顔をじっと見ながら、何度も助けてと口を動かしてるのがわかった。

どれくらい時間が経っただろうか。体感的には何時間も掴んでいたようにも感じる。手が汗ばんできて、彼女が少しずつずり下がっていくのがわかった。そしてーー。

「キャー」

周りの観光客の悲鳴とともに、彼女は地面へと落ちていった。

11/11/2024, 5:28:58 AM

「ススキ」

六畳一間の窓から見える裏山。
そこには誰も手入れしてないであろう、
無数のススキがある。
僕はそれをボーっと眺めるのが好きだ。

窓を開けてのんびり眺めていると、
風に押されたススキが「さー」という音を奏でる。
どんな流行の音楽よりも、
僕の心を癒してくれる。

夕方になると夕陽をバックにしたススキが、
黄金に光輝く美しい景色を作り出してくれる。
どんな有名な絵画よりも、
僕の目を釘づけにしてくれる。

たったそれだけではあるが、
僕はそれだけで満足している。

六畳一間から見えるススキ。
それは僕だけの秘密の閲覧席。

11/8/2024, 8:33:03 AM

[あなたとわたし]

わたしと出会ったとき
あなたは喜んでくれたのに。

あなたが旅行へ行くときも
あなたが寂しい夜も
ずっと一緒だったはずなのに。

新しい機種が出た?
たったそれだけで
わたしを捨てるの?

私はまだ使えるよ。
LINEだってできる。
Youtubeだって使える。
そりゃ、バッテリーの持ちは
悪くなってきてるけど。

それだけで
わたしを捨てるの?
あなたがわたしと過ごした時間は
そんな簡単に捨てれるものだったの?

11/4/2024, 6:38:01 PM

哀愁を誘う

今日、僕は仕事を休んだ。
風邪を引いたわけではないけど、なんとなく日々の疲れがたまってしまい、仮病で休んでしまった。

会社の人達には申し訳ない気持ちもあるけど、せっかく休んだのだから、リフレッシュも兼ねて出かけてみることにした。

とはいえ観光地雑誌を開いて遊ぶルートを決めれるほどの元気がなかったので、適当に知らない名前の駅に無計画で行ってみることにした。

駅の改札を出てみると、まだ昼前だというのに、シャッターの閉じたお店がズラリと並ぶ。

「きっと昔は地元で愛される商店街だったんだろうなぁ」

その中に一軒だけ空いている玩具屋があった。

「他に行くあてもないからこの店に入るか」

プラモデル、戦隊モノの玩具屋、それに女の子が好きそうな着せ替え人形。どれも大人になった僕には興味が無かった。けど何だろうか?子供の頃、こういった玩具で遊んだ記憶が次々と蘇ってくる。

「あの頃はたのしかったなぁ」

毎日、同じ玩具で遊んでも飽きなかった。
なのに今は、、、。

最新のゲーム、話題の飲食店。そういった物にどれだけお金を使ってもストレスが溜まるばかり。

もしも願いが叶うならば、もう一度、何も知らない子供の頃に戻して欲しい。


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