「ススキ」
六畳一間の窓から見える裏山。
そこには誰も手入れしてないであろう、
無数のススキがある。
僕はそれをボーっと眺めるのが好きだ。
窓を開けてのんびり眺めていると、
風に押されたススキが「さー」という音を奏でる。
どんな流行の音楽よりも、
僕の心を癒してくれる。
夕方になると夕陽をバックにしたススキが、
黄金に光輝く美しい景色を作り出してくれる。
どんな有名な絵画よりも、
僕の目を釘づけにしてくれる。
たったそれだけではあるが、
僕はそれだけで満足している。
六畳一間から見えるススキ。
それは僕だけの秘密の閲覧席。
[あなたとわたし]
わたしと出会ったとき
あなたは喜んでくれたのに。
あなたが旅行へ行くときも
あなたが寂しい夜も
ずっと一緒だったはずなのに。
新しい機種が出た?
たったそれだけで
わたしを捨てるの?
私はまだ使えるよ。
LINEだってできる。
Youtubeだって使える。
そりゃ、バッテリーの持ちは
悪くなってきてるけど。
それだけで
わたしを捨てるの?
あなたがわたしと過ごした時間は
そんな簡単に捨てれるものだったの?
哀愁を誘う
今日、僕は仕事を休んだ。
風邪を引いたわけではないけど、なんとなく日々の疲れがたまってしまい、仮病で休んでしまった。
会社の人達には申し訳ない気持ちもあるけど、せっかく休んだのだから、リフレッシュも兼ねて出かけてみることにした。
とはいえ観光地雑誌を開いて遊ぶルートを決めれるほどの元気がなかったので、適当に知らない名前の駅に無計画で行ってみることにした。
駅の改札を出てみると、まだ昼前だというのに、シャッターの閉じたお店がズラリと並ぶ。
「きっと昔は地元で愛される商店街だったんだろうなぁ」
その中に一軒だけ空いている玩具屋があった。
「他に行くあてもないからこの店に入るか」
プラモデル、戦隊モノの玩具屋、それに女の子が好きそうな着せ替え人形。どれも大人になった僕には興味が無かった。けど何だろうか?子供の頃、こういった玩具で遊んだ記憶が次々と蘇ってくる。
「あの頃はたのしかったなぁ」
毎日、同じ玩具で遊んでも飽きなかった。
なのに今は、、、。
最新のゲーム、話題の飲食店。そういった物にどれだけお金を使ってもストレスが溜まるばかり。
もしも願いが叶うならば、もう一度、何も知らない子供の頃に戻して欲しい。
「涙の理由」
私は砂漠のゴーレム。
城に住んでいるご主人様を護るため、
土を固めて作られた番人。
そんな私にご主人様はいつも優しくしてくれた。
どこからか花を摘んでは私にプレゼントしてくれた。
それでも私は土で作られたゴーレム。
それの良さがわからない。
そんなことを思いながら、
何十年もの時をご主人様と過ごした。
ある日、ご主人様はいつもに増して
たくさんの花束を私にくれた。
私は何か良いことでもあったのだろうと思った。
しかし、その日以来、ご主人様は私のところへ来なくなった。
何故だろう?
ご主人様を怒らせてしまったのだろうか。
たくさんのプレゼントをもらったのに、
私が嬉しい顔ひとつしなかったから。
しかし、考えても、考えてもわからない。
なぜなら私はゴーレムだから。
それからどれくらいの時が経っただろうか?
あるとき、1人の男がやってきた。
「そこの男よ、私は砂漠の番人ゴーレムだ。このさきに進もうと言うなら、城の主人を護るため、お前を捻りつぶすぞ」
男は言った。
「この先の主人なら、とうの昔に亡くなっているよ」
私は男が言っている意味がわからなかった。
なぜならゴーレムだから。
だから私は男に尋ねることにした。
「我が主人が亡くなるとはどういうことか?私は何百年と形がある。何百年と生きている。亡くなるとはどういうことか?」
男は最初、不思議そうな顔をしていたが、やがて何かを察したように答えてくれた。
「君の足元にある枯れた花を見てごらん。命が亡くなるとはそういうことだ」
私はそこでようやくわかった。
ご主人様は怒っていたのではない。もう命が短く、私の前に顔を出せなくなるから、せめて私が寂しくならないように、たくさんのプレゼントをくれたのだと。そして、ご主人様は足元の枯れた花のようになってしまったのだと。
そのとき私の頬に水が流れた。
「おかしいな、今日は雨が降ってるわけでもないのに、何故頬に水が流れるんだ」
私は男に尋ねた。
「雨が降ってないのに頬に水が流れるのは何故だ」
男は優しく答えてくれた。
「それは雨じゃなくて涙だよ」
私は男の言ってる意味がわからなかった。
なぜなら私はゴーレムだから。
「奇跡をもう一度」
20xx年。夏。
「只今の時刻をもちまして、太陽の利用期間が終了いたします。」
突然脳内に流れてくるアナウンス。
それと同時に頭上にあった太陽の光が消えた。
次第に気温が下がり、真夏だと言うのに、吐息が白くなっていく。
太陽が仮物だったということを誰が想像できただろうか。いや、娯楽に明け暮れて知ろうとしなかった、我々現代人にも問題があったのかもしれない。
どちらにしても、もう遅い。
誰も太陽の借り方なんて知らない。
我々人類はなす術もなく、ただ現実を受け入れるしかなくなってしまったのだ。