耳を澄ますと
耳を澄ますと虫の声鳥の声、木々のざわめき、川のせせらぎ、それから───
人の噂声。
田舎というのは、かくも閉塞的で淀んでいる。
他所から来た者は、表面のその自然の豊かさ人々の温かさだけを切り取って夢を見る。
その内面におどろおどろしい闇があるのを知らずに。
結局、他所の者はいつまで経っても他所の者。
一員にはなれない。
どこかで誰かが必ず見て、聞き耳を立てて、真偽不明の噂が突風のようにすり抜ける。
生まれた時から私の耳には虫や鳥の声、木々のざわめき、川のせせらぎ、そして人の噂声がこだましていた。
二人だけの秘密
先輩に新しいパートナーが付いた。
仕事上の関係だけど、少し妬いてしまう。
最初二人は犬猿の仲で、よくいがみ合っていた。心の奥底では先輩がパートナーを解消して、また僕の元に戻ってきてくれないだろうかと願っていた。
でもある日、僕は
事件の捜査中に二人が会議室で話しているのを見てしまった。
「ワンコ、お前さ俺のこと好きだろ?」
「はぁ!?仕事中に何言ってんですか。あくまで、あなたの事件に向き合う姿勢を褒めただけで、好きだなんて一言も言ってない。…あと、そのワンコって呼び名どうにかなりませんか?」
「ふーん。いいだろ?俺はただお前を信頼してんだよ、ワンコ。…お前と俺で必ずホシを上げるからな、付いて来いよ。」
僕はあんなふうに笑う先輩を一度も見たことがなかった。
胸の奥がモヤモヤしたけど、確かに二人の間には信頼があった、そしてきっとそれ以上の感情と、僕には分からない二人だけの秘密が。
優しさだけで、きっと
俺は冷たくなった母の手を握る。
「優しさだけで、きっと。きっとどんな人も優しさだけで変われるから。だから、あなたもいつまでも優しい人でいてね。」
母の甘い考えに俺は苛立っていた。
人間なんてのはそう簡単に変わらない。
母は犯罪者の更正を行う保護司をしていた。
「悪いことをした人が、反省して悔やんで、正しい道に戻るのを傍で支える事が私の生きがいなの。この世に根っこから悪い人なんていないんだから。」
母は嬉しそうによく言っていた。
俺は反吐が出るほどそのセリフが嫌いだった。
"根っこから悪い人なんていない"
そんな訳ないじゃないか。根っこからの悪人だから母さんの優しさに付け込まれて、殺されたんじゃないか?
「優しさだけで、きっと?…なんにも変わらなかったじゃないか。悪人は生まれながらに悪人なんだよ。…返せよ。母さんを、返せよ。」
俺はどこにもぶつけられない怒りを込めて冷たくなった母の手を震えながら力の限り握りしめた。
カラフル
派手な金髪に色んな色のネイル、真っ赤な口紅にピンクの服、青いバックに緑色のキーチェーン…彼女を見た時、第一印象は"カラフル"だった。
私は昔からシンプルな白と黒が好きで、服から持ち物までほとんどがモノクロだった。
そんな私にとって彼女はとても眩しかった。
彼女を最初は不快だと思っていた。けど最近、この不快感は憧れから来てるのかもしれないと気づいた。
きっと私もあんなふうにカラフルに生きてみたかったのかも、と。
カラフルな彼女はモノクロの私の世界に少しだけ変化をもたらしてくれた。
私はカラフルに塗った自分の爪を眺めて微笑んだ。
楽園
『楽園とはなんだろうか?
本当にあるのだろうか?
私たちが今、生きてるこの社会、現在、この時空が "地獄"で、ここで刑期を終えた──つまり寿命を全うしたものが死んで楽園へ辿り着けるのではないか?
つまり、楽園とは死の先にあるもの。
成仏したあとにあるのではないか?
私は知りたい。どうしても、だから誰か
私を殺してくれ。』
机に残されたメモに殴り書きで書いてあった。
父は行方をくらました。
失踪前なにかに取り憑かれたように「楽園、楽園」と連呼していた。
一体、父は何に取り憑かれてしまったんだろう、一体どこへ、消えてしまったんだろう。
私の手で、楽園へ連れて行ってあげたかったのに。
一体誰が?