真夏の記憶
真夏のある日、僕は倒れた。
原因はよく覚えていない。
薄れゆく意識の中で誰かが僕に必死に声をかけ続け、介抱してくれた。
僕を抱きかかえた腕は逞しく、「大丈夫ですか?」と言う耳に残る妙に艶っぽい低い声だけを覚えていた。
彼の介抱のおかげもあり、僕はすぐに退院した。
病院の人に聞いても「名乗らなかったから、わからない。」と言われ、結局お礼を言えずじまいだった。
それから1年後、真夏のある日。
暑くてフラフラして倒れそうになった瞬間、後ろから抱き留められた。
覚えのある逞しい腕と「大丈夫ですか?」と言う耳に残る妙に艶っぽい低い声。 1年前、僕の命を救った彼だと直感した。
「ありがとう、ございます。…あの、変な事聞くんですけど…1年前も助けてくれましたよね?」
「1年、前。」
「あれっ、違いました?すみません。」
人違いをしてしまったかと急いでその場を離れようとする。
「勘違い、なんかじゃないですよ。」
「……え?」
「あー、いえ、忘れてください。あ、でも忘れる前に一言だけ、俺はずっとあなたを見ていました。好きだから。でも、あなたは俺に応えてくれない。だからまた、あなたの記憶を消します。あなたからの愛は受け取れなくても、あなたに触れられるだけで俺は幸せだから。」
そういうと、彼は僕の額に手を当てた。
全身の力が突然ガクンと抜けてその場に倒れた。
薄れゆく意識の中、僕は彼の腕の中に抱かれた。
こぼれたアイスクリーム
中3の夏休み、人生で初めての彼氏ができた。
嬉しくて気分がふわふわして毎日楽しかった。
夏休みのある日、彼が公園にデートに誘ってくれた。いつも制服姿だから、私服は一段と気合いが入る。
待ち合わせの10分前に公園に着くと、彼はもう待っていた。
「あ、あの、おはよ!ごめん!待った?」
「おっ!おは、よう。全然、全然!お腹すいて先にアイス食べてた!」
ふと見ると、彼の手には溶けかけたアイスクリームが暑さでこぼれそうだった。
「あ!アイスこぼれそう、気をつけて!」
「えっ!?おわっ!危ねぇ。ありがとう。……いつもと違うからさ。…その、服とか。か、か、かわ、可愛いくて。」
「へっ!?」
そうこうしてるうちに彼の手にあったアイスクリームは結局こぼれてしまった。
やさしさなんて
やさしさって色んな形がある。
純粋な思いやりのあるやさしさ
見返りを求めた裏のあるやさしさ
期待して敢えて厳しくするやさしさ
損得勘定を考えたやさしさ
やさしさなんて、その人の使い方、相手の受け取り方しだいで様々変化する。
あなたはそれでも"優しい"人が好き?
風を感じて
車窓から少し顔を出して爽やかな海風を感じる。
隣で運転している友人はずっと口を噤んだまま。車内には未だどんよりした空気が漂う。
「…運転お疲れ。なぁ、横見てみ!海!」
明るく振る舞うが、友人は顔面蒼白でしかめっ面をして運転をしていた。
しばらくすると、崖の近くで車が止まる。
「着いたぞ。」
そう言うと、トランクを開けた。
「手伝え。絶対に誰にも見られるなよ!周りを確認しろ。誰かに見られてたら俺らはおしまいだ。」
辺りはすっかり暗くなっていた。暗闇にどこからともなく不気味な波音がこだまする。
「ん。誰もいないから大丈夫だ。…さっさと終わらせよう。」
トランクからビニールシートに包まれた遺体を出して、急ぎ足で海に投げ棄てる。
崖の下を覗きこむと生ぬるくて気分の悪い風を感じた。
夢じゃない
放課後の教室。
暖かい日差しに照らされて眠る君。
そっと隣に座って、あどけない寝顔を眺める。
「う、んー。ふ、ふへへへ。」
突然、笑いだした。
きっと面白い夢でも見てるんだろうな。
そのあまりの可愛さに君に近づいて呟いた。
「…好きだよ。」
「……ぁたしも。好き!ん〜んふふふ。」
「!?」
えっと、まさか、起きてる!?いや、完全に寝てる。それとも、これは俺の夢?
思いっきり自分のほっぺをつねった。
「…いっ、た。夢じゃ、ない。」