「やさしい雨音」
今日の予報は午後から雨だったのにうっかり傘を忘れてしまった。
私は昇降口で呆然と暗い空を眺めていた。
みんな傘をさして次々帰っていく。
学校から家まで近いから、まぁ何とかなるかと思ってジャケットを頭に被って外に飛び出そうとしたその時、先生から声をかけられた。
「あっ!待て待て!傘ないんだろ?俺の予備の傘、貸してやるからこれ使いな。」
「え。あ、ありがとう…ございます。でも家すぐ近くなんで、走って帰りますよ!」
「家近くても、濡れたら風邪ひくかもしれないだろ?」
雨空を見上げて笑う私の後頭部を先生は軽くポンと触れた。
普段、厳しくて近寄り難い先生だったけど急な
やさしい台詞でちょっとだけキュンとした。
「……。じ、じゃあ、ありがたく、お借りします。」
「ん。今日俺が見回り当番だから、施錠ついでに校門まで送るわ。」
借りた傘をさして、2人で並んで歩く。
ザーザーと無機質だって雨音がなぜか、今この瞬間は、やさしく包み込むような音に聴こえた。
「歌」
何もかもに絶望した。
私の人生、何にも上手くいかない。
気を紛らわす為に、明るく賑やかな夜の街を何も持たずにふらつく。
耳を塞ぎたくなるほどの喧騒の中、どこからともなく歌が聞こえてくる。
どこの誰かもわからない新人アイドルのアドトラックが爆音で曲を垂れ流しながら走り抜けた。
その時、トラックから聞こえてくる歌声に耳を奪われた。
1人だけ恐ろしいほど綺麗で透明感のある歌声に私は自然と鳥肌が立ち、体が熱をもつ。
私は必死に走って家に帰った。
パソコンを開いてアドトラックに書いてあった、アイドルグループを調べて動画を見漁った。
私はすっかり彼女の歌声に"一耳惚れ"してしまったのだ。
私の人生に彼女の歌が一筋の光を灯した。
「そっと包み込んで」
明るいところは苦手だ。
太陽の光の下になんて行けば、わたしは忽ち消滅してしまうだろう。
なぜかって?
それは…わたしが吸血種族の末裔だから。
普段は居酒屋とか深夜バイトを色々やっている。
そんなわたしに、ある前代未聞の出来事が起こった。
バイト先の居酒屋で出会った女だ。
女は会う度いつもわたしに笑顔で話しかけてくる。最初は鬱陶しかったが次第にわたしの心は女へ興味を抱いた。
そして、わたしは太陽の下の世界に憧れた。
どうしてもあの女に近づきたくて、わたしは恐る恐る太陽の下へ足を踏み出した。
身体中に突き刺すような刺激を受ける。
5歩進んだだけでわたしはその場にくずおれた。
すると、突然真っ暗な暗幕のような物に包み込まれた。
「きゅーさん!?ちょっと、大丈夫ですか!?」
きゅーさんとはバイトの時のあだ名のようなものだ。吸血鬼だからきゅーさん。
「うぅ……あ、ありがとう。もう少しで消滅するところだった。」
「あはは!まーた吸血鬼ネタ?さすが。でも、この暑さで脱水か熱中症なっちゃったぽいね。とりあえず、病院いこ。」
彼女の優しさに包まれて、わたしは病院へ連行された。
「昨日と違う私」
(※ 2/26「記録」の続き)
近くで殺人事件が起き、自首をしに警察へ行った翌日。拘留されることになり、私は留置所へ送られた。
次の日、事情聴取されることになった。
「本当にあの事件は君が起こしたのか?」
「はい。厳密には私ではなく"ワタシ"なんですけど…事件があった日だけ、私が毎日つけている記録がなかったので。」
「うーん、それだけだと証拠不十分なんだよ。凶器は一体どこへ?」
「…ワタシは記録をしないのでわからないんです。ごめんなさい。でも、着ていた服に血がついていたし、凶器もきっとその辺に捨ててありますよ。ワタシはそういう子なので。」
刑事さんはそんな私に困り果てた様子だった。
後日、現場の近くで凶器は発見され鑑識の結果ワタシの犯行で間違いはなかった。
精神鑑定や責任能力など色々複雑になると言われ
私はさっさとワタシの罪を認め、罪を償う。
あぁ早く、私の中のワタシを殺してしまいたい。
「Sunrise」
毎日、仕事や家庭に追われる。
異常気象や不景気、事件事故のニュースばかり。
次第に心に余裕が無くなっていく。
なんでもいい。なにか、明るいものが見たい。
暗闇の中をひたすら彷徨っていると、東の空から、眩しい光が昇ってくる。
To a bright future with the Sunrise!
(夜明けと共に明るい未来へ!)
世の中が暗くてどんよりしているなら、太陽を見上げて少しでも前向きに、明るい気持ちを取り戻そう。
太陽が出ていない?
そんな時は、太陽みたいに輝く君の笑顔をみせてくれ!