「やさしい雨音」
今日の予報は午後から雨だったのにうっかり傘を忘れてしまった。
私は昇降口で呆然と暗い空を眺めていた。
みんな傘をさして次々帰っていく。
学校から家まで近いから、まぁ何とかなるかと思ってジャケットを頭に被って外に飛び出そうとしたその時、先生から声をかけられた。
「あっ!待て待て!傘ないんだろ?俺の予備の傘、貸してやるからこれ使いな。」
「え。あ、ありがとう…ございます。でも家すぐ近くなんで、走って帰りますよ!」
「家近くても、濡れたら風邪ひくかもしれないだろ?」
雨空を見上げて笑う私の後頭部を先生は軽くポンと触れた。
普段、厳しくて近寄り難い先生だったけど急な
やさしい台詞でちょっとだけキュンとした。
「……。じ、じゃあ、ありがたく、お借りします。」
「ん。今日俺が見回り当番だから、施錠ついでに校門まで送るわ。」
借りた傘をさして、2人で並んで歩く。
ザーザーと無機質だって雨音がなぜか、今この瞬間は、やさしく包み込むような音に聴こえた。
5/25/2025, 10:50:35 AM