「どうしても…」
大学で受講中、たまたま前の席にツヤツヤした綺麗な黒髪の女性が座った。
手入れが行き届いた綺麗なその黒髪に目を奪われる。きっと美人なんだろう、と心が弾む。声をかけようにも、どの学部のどの学年の人かもわからない。
僕はどうしても彼女の顔が見たくて、席を移動するフリをして彼女よりも前の席へ移動した。
自然な感じで後ろを振り返ると、そこには美女はいなかった。
代わりに、綺麗な黒髪ロン毛の男が座っていた。
目が合ってしまい、僕はぎこちなく微笑んだ。
すると、彼(?)は僕に向かってウインクをした。
好奇心は時に人を殺す。
「まって」
父は歩くのが早い人だった。
幼い私も早歩きの父の後ろを懸命について行く。
けれど、どんどん進んで行ってしまう父。
歩いても歩いてもその距離は縮まらず、叫ぶ。
「まって!!!」
そうすると父はいつも、ハッと気づいて慌てて振り返り
「あ〜ごめん、ごめん。もっと、ゆっくり歩かないとな。」
と申し訳なさそうに私の頭を優しく撫でる。
ある日私は夢を見た。
いつものようにどんどん進んで行ってしまう父。
「まって!パパ!!ねぇ、まって!!」
手を伸ばして何度叫んでも、父は止まってくれない。
ついに、父の姿は遠く遠く消え去ってしまった。
汗だくで目覚めると、一気に現実に引き戻された。仏壇へお線香をあげる。
「パパ、またパパの背中を追いかける夢を見たよ。今日も私を見守っていてね。それじゃ、行ってきます。」
通勤路を寝ぼけ眼でボーッと歩いていると、突然どこかから「まてっ!!」と声がして、ハッと我に返り立ち止まる。
目の前を自転車が猛スピードで横切って行った。
驚いて、声も出せなかった。きっと父が助けてくれたんだろう。
私は空に向かって呟いた。
「ありがとう、パパ。」
「まだ知らない世界」
目の前に扉が現れた。
戸惑い、扉の前で立ち止まっていると、扉が少し開いて導かれる。
未知の世界への恐怖心と好奇心がせめぎ合う。
躊躇いながらも、扉に手を伸ばす。
とても怖い。この先に何が待ち受けているのか、どんな結果になるのか、予測不可能。
それでも私たちは、扉を開く。
予測不可能だからこそ、まだ知らない世界へ飛び込む勇気と覚悟を持って。
「手放す勇気」
現代社会はモノで溢れている。
様々な文明の利器によって生活が豊かになったのはわかるが、あまりにもモノが溢れすぎていると思う。
特にスマートフォンは1度持ってしまうと手放すことはかなり難しいだろう。
そんな時、わたしはスマートフォンの電源を消して鍵のかかる箱にしまってみる。
現実逃避ならぬスマホ逃避だ。
スマホから離れると、辺りの景色が鮮明に見えた。様々な音がはっきりと聞こえる。
思考が巡る。言葉が紡げる。心にゆとりができる。不思議と気分が良かった。
完全には手放せなかったけれど、手放した少しの間、確かにわたしはいつもより人間らしかった。
「光輝け、暗闇で」
僕の片目は生まれつき視力を失っていた。
残りの片目も、次第に視力が失われていった。
そんな日々の中、僕はバレエと出会う。
毎日のレッスンのお陰で、舞台に立てるほど上達した。
きっと、僕の両目はもう少しで見えなくなるだろう。
暗闇の世界へ行くのはまだ少し怖いけれど、僕は輝かしい光に照らされて舞台の上で舞い続ける。
そんな僕の輝きが誰かに届くことを願って。