27(ツナ)

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「まって」

父は歩くのが早い人だった。
幼い私も早歩きの父の後ろを懸命について行く。
けれど、どんどん進んで行ってしまう父。
歩いても歩いてもその距離は縮まらず、叫ぶ。

「まって!!!」

そうすると父はいつも、ハッと気づいて慌てて振り返り
「あ〜ごめん、ごめん。もっと、ゆっくり歩かないとな。」
と申し訳なさそうに私の頭を優しく撫でる。

ある日私は夢を見た。
いつものようにどんどん進んで行ってしまう父。
「まって!パパ!!ねぇ、まって!!」
手を伸ばして何度叫んでも、父は止まってくれない。
ついに、父の姿は遠く遠く消え去ってしまった。

汗だくで目覚めると、一気に現実に引き戻された。仏壇へお線香をあげる。
「パパ、またパパの背中を追いかける夢を見たよ。今日も私を見守っていてね。それじゃ、行ってきます。」

通勤路を寝ぼけ眼でボーッと歩いていると、突然どこかから「まてっ!!」と声がして、ハッと我に返り立ち止まる。
目の前を自転車が猛スピードで横切って行った。
驚いて、声も出せなかった。きっと父が助けてくれたんだろう。
私は空に向かって呟いた。
「ありがとう、パパ。」

5/18/2025, 11:41:28 AM