「夜が明けた。」
少し早く目が覚めて、寝ぼけ眼で薄暗い暁の空を眺める。
徐々に辺りが白くひかりだして東の空から太陽が昇ってくる。
夜が明けた。
人の営みは日々忙しなく、あっという間に過ぎていく。
そんな忙しさとは裏腹に太陽が昇って沈んで夜が来て、夜が明けて、また太陽が昇る。
そんな不変的な空の動きを感じて、コーヒーで一息つく。
「ふとした瞬間」
彼女と別れて半年が経った。
彼女は可愛らしくて、優しくて、気が効いて、僕には勿体ないくらい素敵な女性だった。
彼女は僕と会う時、よく香水を付けて来た。
石鹸のような凄く爽やかで彼女にピッタリの優しい香りだった。
いつの日だったか、彼女に香水の香りを聞いた。
彼女は「スズラン」の香りだと言っていた。
彼女と別れてからというもの、日常生活でふと彼女の「スズラン」の香りがふわっと香る瞬間がある。きっと、彼女が僕に会いに来てくれたんだろう。
そんな時は、花屋でスズランの花束と君が大好きだったお菓子を買って、彼女の眠るお墓へお参りに行く。
「どんなに離れていても」
「離れてても、ずっと一緒だよ!」
それが彼女の口癖だった。
会う度、同じことを言う彼女のことが最初は可愛いと思っていた。
しかし、次第に俺はそのセリフが鬱陶しく感じいた。
ある時、彼女と些細なことで喧嘩になってその場で解散した。帰り際、喧嘩をしたにもかかわらず「離れてても…ずっと一緒だよ。」
鬱陶しいあのセリフを言ってきた。
俺は全部どうでも良くなって、彼女から一切禁止されていた昔からの女友達に連絡をした。
会ってくれることになり、その場のノリで一晩だけ相手をしてもらった。
翌日、変な違和感と嫌な匂いに目を覚ますと、横で寝ていた女友達が血だらけになっていた。
ふと、部屋を見渡すと。 彼女がいた。
「離れていても、ずーっと、一緒だよ。」
そう言って彼女は返り血で染った顔で笑っていた。
「こっちに恋」
部活終わりに放課後のグラウンドから音楽室の窓を眺める。
音楽室の窓際にピョコっと人影が現れる。
俺はその人影に向かって、ボールを片付ける振りをして小さく手を振る。
周りにバレないように、ほんとに小さく。
本当は近くで色んな会話したい。
でも、気恥ずかしくて、周りにバレたくない。
相反する気持ちが渦巻く。
「こっちに来ないかな。君は、今何を考えてるんだろう。」
「愛にきて」
部活が終わって、楽器の片付け中。片付ける振りをして窓際に近づく。
グラウンドを探していると、恥ずかしそうに、ぶっきらぼうに小さく手を振る彼を見つけた。
私は周りにバレないようにコソッと手を振り返す。
本当はみんなに彼氏ってバラしたい。
でも、コソコソするこういう恋愛も楽しい。
相反する気持ちが渦巻く。
「会いにきて欲しいな。君は今、どんな気持ちなんだろう?」
「巡り逢い」
この世界の人間は何度も何度も死んでは生まれる"輪廻転生"を繰り返している。
ただ、前世の記憶を持つ人間はほとんどおらず、覚えていても成長とともに忘れてしまうらしい。
私も幼い頃、人より前世の記憶がハッキリしていたが、やはり成長とともにその記憶は遍く失われてしまった。
ある日、私は買い物に他県まで遊びに行き、そこで同い年くらいのある女性とすれ違った。
すれ違った瞬間、ビリッと静電気が走ったような不思議な感覚を感じて振り返ると、彼女も私を見ていた。
その瞬間、忘れていたはずの前世の記憶が走馬灯のようにバーッと頭の中を駆け巡った。
あれは、江戸時代。貧乏人だらけのボロ長屋の一室、彼女は私の妻だった。
妻と二人慎ましやかな生活を送っていた。
そんなある日、私は窃盗というあらぬ疑いをかけられ、冤罪のまま奉行所へ連行され、打首となった。
最後まで、妻は無罪を訴え私の首が切られる寸前まで泣き叫び、慈悲を請いていた。
私の記憶の走馬灯はそこで終わった。
私の目からは涙が流れ、人目も気にせず、彼女を抱きしめていた。
「やっと会えた。お礼を伝えたかった。最期までありがとう。」
「…貴方を救えなくて、ごめんなさい。会いたかったわ。」
彼女も記憶を思い出したのか、私の背中をギュッと抱き締め返し、涙を流した。
という、不思議な巡り逢わせのお話。