「どこへ行こう」
強引に君の手を取る。
「…どこに行くの?」
泣き腫らした顔と掠れた弱々しい声。
一体どれくらい泣いていたんだろう。
考えると苦しくなる。
だから私は笑って、君の手を取って進む。
「さぁ、どこへ行こうか?」
君の笑顔を取り戻す旅に出よう。
「big love!」
生まれて一番初めに「ありがとう」と言ってくれた。
いつも私の手を離さないで、そばで見守ってくれた。
新しい環境に戸惑う私に、心を鬼にして背中を押してくれた。
感謝してるのに、むしゃくしゃして酷いことを言ったりした。
文句ひとつも言わないで、毎日おいしいお弁当を作ってくれた。
1人で悩んでいるのに気づいて、静かに寄り添ってくれた。
本当は心配でたまらないのに、笑顔で送り出してくれた。
あれから月日は経ち、私も貴女と同じ立場になりました。
今までたくさんの大きな愛をくれてありがとう。お母さん。
私も貴女みたいなお母さんを目標に頑張ります!
「ささやき」
季節は春。草木は芽吹き、暖かな日差しに包まれ、新たな生活に浮き足立つ人々の活気。
…とは裏腹に、ただ3年に進級しただけで何の変哲もない僕の日常。
放課後の静かな教室で惰眠を貪る、という今の時期にしかできない至高の娯楽を楽しんでいる。
微睡の中、教室に入ってくる足音が聞こえた。
「まだ、教室に残ってる輩が…しかも、昼寝なんかして。」
一瞬ビクッとなったが寝たふりでやり過ごすことにした。が、どんどん僕の方に近づいてくる。
僕の娯楽を邪魔しにきた奴は、あろうことか、僕の顔を覗き込んできた。
僕の寝顔をじっと眺めたかと思うと、
「きれいな寝顔だな…。って、俺なにを!」
そう、僕の耳元でささやいて教室を後にした。
一体、なんだったんだ…そして、誰だったんだ?どこかで聞いたことのある声だったが。
数日後、休み時間に放送が入った。
「ゴホン、えー、生徒会長より、役員の方々!昼休みに10分ほど緊急のミーティングがあるので、終わり次第生徒会室にお願いします!」
僕はピンときた、コレだ、この声だ。クラスメイトで生徒会長のあいつの声だ。
放送室から戻ってきたあいつと不意に目が合ってしまい僕は思わず口角が上がった。
すると、会長がブワワッと赤面した。
ビンゴ!
これから1年、楽しくなりそうだ。
「星明かり」
真っ黒な布に無数の宝石を散りばめたような星空。
月の明かりとはまた違って包み込まれるような圧倒的に美しくて幻想的な星明かり。
無数の人間が行き交う都心の交差点。
そんな中で、ひときわ輝いて見える君。
無数の星の中で、目を惹くほど強い光を放つ星のよう。
君はまるで、一等星。
「影絵」
私は昔から絵を描くことが好きで、よく影絵を描いていた。
影絵は余計な表情を描かなくても、黒一色だけで表現することができるから好きだった。
絵で食べていくつもりはなかったけど、とりあえず美術系の大学へ進学した。
そこには才能の化け物が大勢いた。私は足元にも及ばない。
校内の展示会である彫刻作品に出会った。
その人物彫刻はあまりにも精巧で、ただの白い石膏なのに、今にも目を開けて動き出しそうなほど、美しい女性の姿に私は自然と涙をこぼしていた。
その作品に出会ってから、私の影絵に表情が生まれ、化け物たちに少し追いついた気がした。
私も、黒一色だけで誰かを魅了するほど美しい作品を作ってやる。