《 オアシス 》
わたしはずっと、他人に劣等感を抱えて生きてきた。
なんであの子みたいに可愛くないんだろう
勉強もできなければ運動神経もよくないんだろう
好かれる要素なんて何もないじゃないか。
いじめられて当然のような自信の無さと根暗さだった。
でもそんなわたしにも、彼氏ができた。
ネットだったけれど、たくさん愛してくれて
わたしの嫌なところも好きだよって
メンヘラでもいいよ縛っていいよって全部受け止めてくれる
そんな初彼氏だった。
いじめと自己嫌悪で枯れた心に綺麗な水を与えてくれる
彼は唯一の心のオアシスで、拠り所だった。
けれど彼は末期癌患者で、余命僅かだった。
家庭環境も複雑で、わたしも彼も死にたがりだった。
だからお互いに依存してた。
彼がいないと生きていけないって、そう思ってた。
でも彼はある日空に駆け出しちゃったの。
わたしを遺して。
『置いていってごめんね 大好きだよ』
『お空にいるから遊びに来てよ 宿題な』
そう遺書を書いて彼は飛び降りたの。
どれだけ苦しかっただろう、怖かっただろう。
でもその怖さを打ち破っちゃうくらい苦しかったのかな。
今更わたしが考えたところで何も分からない。
だけど彼はわたしにとって紛れもなくオアシスだった。
灰色だったわたしの世界の、唯一の光だったよ。
これからも忘れることなんてない、彼と過ごした時間。
今はやっと新しい幸せ、掴めたけれど
彼に似てて器大きくて受け入れてくれる優しい人なの。
今までの恋愛はめちゃくちゃで
すぐ別れたりしてたから、彼が止めてるのかなって
自意識過剰かもしれないけど
わたしが傷つかないように別れる方向に持って行って
くれてたのかなって思ってたの。
けど今は彼と同じタイプだから見守ってくれてるのかな。
なんて思ったりして。
新しい大切な人はできたけど、今でも君は
わたしの唯一のオアシスだよ。
君と過した時間を思い出すだけでも胸が温かくなるような。
君を亡くして辛かったけど、素敵な思い出。
これからも永遠に死ぬまで忘れることは無い
わたしの唯一の光。
いつかわたしがお空に行く日が来たらどうか
君に逢えますように。
《 夏 》
肌にまとわりつく生温い風と痛いほどの日差しが
夏の訪れを感じさせる。
今年は君と夏を楽しみたいな。
約束した花火大会、初めて君に見せる浴衣姿。
可愛いって、褒めてくれるかな。
わたしに惚れ直してくれないかな。
君と恋人になって2ヶ月。
今までなにも気にしてなかったわたしが
保湿とダイエットとストレッチを始めて
三日坊主のはずなのに、今は毎日続けているの。
君に可愛いってもっと思って欲しくて。
君に飽きられないように自分磨き続けて。
今年の夏は君がいてくれるから、楽しめそうだよ。
君がいるだけでありふれた日常がキラキラするの。
何気ない日でも特別な日になるの。
これからも君とたくさんの夏を過ごしたいな。
《 冒険 》
小さい頃はよく一人で冒険してたなぁ。
お家の裏にあった裏山、廃神社、こっそりちょっと遠くまで
行ってみたりなんかして。
帰るのが遅い!ってよく母親に怒られたっけなぁ。
あの頃はいいじゃん別にって思ってたけど
今思えば心配してくれてたんだなあって。
わたしはもう今年で20歳。親から離れる歳。
今になってようやく分かったよ、
お母さんがわたしのことを大切に思ってくれてたこと。
めんどくさいなぁって思ったこと
嫌だなって思ったこと、沢山あった。
喧嘩もいっぱいしてきた。
でもわたしが過呼吸起こしたり精神が不安定になったとき
いつも心配して大丈夫だよって背中撫でて安心させてくれたのは
お母さんだったね。
わたしの心に寄り添ってくれたのは、
いつだってお母さんだけだったね。
ごめんね、いっぱい酷いこと言って。
わたし今になってどれほどお母さんの存在に助けられてたか
ようやく分かったよ、気づくのが遅くてごめんね。
これから社会に出て、小さい頃とはまた違う
荒波の海を冒険していくと思う。
お母さんは今はがんばれって、背中を押してくれる。
わたしの目標や夢を応援してくれる。
わたし、お母さんの娘で良かったよ。
嫌だって思ったこと何回もあったけど、わたしね、
お母さんのところに生まれてきてよかった。
これからもたくさん迷惑かけると思う。
心配させちゃうと思う。
でもねわたしはもう大丈夫だよ、冒険、がんばるよ。
わたしも本当の大人になるために。
見守っててね、家出ていってもたまには帰ってくるからさ。
大好きなお母さん。
《 青く深く 》
わたしは青色が好き。
最初はただ推しのメンバーカラーが青だったからって
単純で不純な理由だった。
けれど今は違う。
自分の悩みなんて小さく感じるほど深い青を纏う海。
澄み切った冬の晴れた空。
夏らしさを感じさせる青空と積乱雲。
何よりも好きなのは
世界がいつもよりも藍く見える雨夜──
雨の日の深夜が好きだ。
誰も外にいない、車ひとつ走っていない。
見えるのは家々の電気と街灯と、どんよりと曇った青い空。
それらはまるで
世界にわたし一人だけだと錯覚させてくれる。
人の多さに疲れたときにわたしが求めているのは
癒しでもなんでもなく、
こういうセンチメンタル的なものなのだと思う。
たまにはセンチメンタルに浸ってもいいでしょう?
世界にひとりだと思える夜があるのなら
わたしはとことんその青に染まるだろう。
きっと青い夜はわたしを深く包み込んでくれるから。
雨が全てを流して、わたしを深い青に染めて、
この世界にわたしひとりだって錯覚させて欲しい。
少しだけ、この世界の苦痛から逃げられたらなんだっていいの。
薬にも人にもどうにも出来ない息苦しさを
どうか、少しだけでも……
《 子供の頃の夢 》
わたしにも、小さい頃は夢があった。
それこそ"お花屋さん"とか、"果物屋さん"とか。
あの頃はわたしもきっと
今公園で楽しそうにはしゃいでいる子供たちと
同じような感じだったのだろうと思う。
いつからだろう。
"夢"が、"やりたいこと"が分からなくなったのは。
流れるように進学し、気がつけば卒業。
初めは真面目に話を聞き通っていた就職ガイダンスも、
いつからかサボるようになって。
今では高校生のときに働いていた職場でだらだらと
フリーター・アルバイト生活を続けている。
今のままでいいのかと、自分に問うても
答えは返ってこない。
夢もやりたいことも何も分からない、
気がつけばこんな廃人になってしまった。
周りはみんな大学に専門学校、就職にと。
わたし一人だけが何もできていないような、
そんなわたしに価値なんてないような
孤独や不安、焦燥を常に抱えて必死に呼吸をしている。
わたしは明日が不安で、怖い。
明日が来るのが、苦痛でたまらない。
明日も何も無い無価値な一日を過ごすのかと
怯えながら眠りにつく毎日だ。
わたしにもかつて夢はあったのに、今は……
大人に近づいていくにつれ、忘れていく感情。
薄れていく喜怒哀楽。
わたしはまた夢を抱けるのかな。
あの公園ではしゃいでいる子供たちみたいに
キラキラ輝ける日は来るのかな。
……わたしに価値なんて、できるのかな。
今日もまた無価値な一日を終えて
後悔の念を抱いて
わたしは明日に脅えながら眠りにつく──。