覚めながら悪夢を見ている、とはこのことだろう。
窓から見える景色は地獄としか言いようがない。
ある日突然、魑魅魍魎と呼ぶに相応しい化物が現れた。そしてその化物どもは、最悪なことに人間を捕食する、という特性を備えている。
化物どもが次々と人間を食い殺す──窓の向こう側はそんな地獄絵図が繰り広げられていた。
幸運なことにこの家は、化物どもが忌避する何かがあるのか、はたまた化物どもの襲撃から守ってくれる加護があるのか──よくわからないが、とにかく安全地帯の役割を果たしてくれている。
幸運なこと──? いや、決してそうは言い切れないことに気づく。
今は備蓄していた食料があるから平気だが、それらが尽きた後は……。
食い殺されるのと餓死するのでは、どちらが辛いのだろうか──窓の向こうに広がる地獄を呆然と眺めながら、まるで救いのない二択が残酷に浮かんだ。
テーマ【窓から見える景色】
既に案内人から説明があったでしょうが、念の為もう一度ご説明させていただきます。
私どもはご依頼主様が指定したターゲットが持つ“形の無いもの”を奪うことを生業としております。
その際に発生する報酬もまた、ご依頼主様が持つ“形の無いもの”をいただく、という形を取らせていただいております。
どうかそのことをよぉく考えた上で、私どもと契約なさるかをお決めくださいませ。
なぁに考える時間はたっぷりとあります。
貴方様が決断されるその時を、私どもはいつまでもお待ちしております。
テーマ【形の無いもの】
いやに赤い夕日に照らされ、遊具がどこか薄気味悪く長い影を地表に落としている。
公園は閑散としており、ジャングルジムに登って遊ぶ子供が一人いるだけだ。
彼は知らないのだ。この街に越してきたばかりだから。そこが曰く付きの公園だということを。
一人遊びが得意な彼は、貸切状態と言わんばかりに楽しそうに遊んでいる。
そこに突如、誰かが啜り泣く声。
驚いて注目すると、ジャングルジムのすぐ側でしゃがみ込み泣いている女の子の姿があった。
一体いつからいたんだろう? 不思議に思いながらも彼は女の子に声を掛けた。
「どうしたの?」
「ここで大事なものを失くしちゃったの……」
「そうなんだ。一緒に探してあげるよ」
彼はジャングルジムの中や周辺をくまなく探す。だが、それらしいものは何もない。
そういえば大事なものってなんだろう。
そのことを訊ねると、女の子はゆっくりと顔を上げて、
「大事なもの──それは私の命だよ」
そう答える女の子の頭はぱっくりと割れ、首は折れて真横に傾いている。青白い肌に生気は無く、煤のように真っ黒い虚ろな目で彼を見ていた。
テーマ【ジャングルジム】
短期間のうちにこうも殺人事件が頻発するとは、いよいよ世界の終末が近いのだろうか。
そして、逮捕された犯人は決まってこう言う。
『声が聞こえたんです、殺せ殺せ殺せ、と──』
それはもう犯人同士で示し合わせたように同じ発言をする。目の前にいる取調べ中の容疑者も例外ではなかった。
「そうやって精神異常者の振りをしていれば、罪が軽くなるとでも思っているのか?」
「気をつけてくださいね、刑事さん。この声、伝染りますから……」
話が噛み合わない。詐病などではなく、本当にこいつは精神に異常を来しているとでもいうのか?
その時、耳の奥で何か聴こえた気がした。
──気のせいではない。その音ははっきりと、そして明確な意味を持つ音声となって鼓膜を振るわせる。
殺せ、殺せ、殺せ──と。
声が響く度に頭が割れそうな程の激痛が走る。
これは……これは一体何なんだ?
どうにかしてこの苦痛から逃れたい。そのためにはどうすればいい?
……ああ、そうか。こうすればいいんだ。
私は苦痛から逃れるために、目の前にいる容疑者の首を明瞭な殺意を込めて強く強く絞めた。
テーマ【声が聞こえる】
木の葉が燃えるような紅色に染まっていく。
もう残暑の面影も思い出すことができない程に秋が深まっている。
吹く風が冬の色を帯びてきたせいだろうか。最近は妙に人恋しい。
ああ、あの紅蓮の如き紅葉のような燃える恋がしたい──!
テーマ【秋恋】