「距離」
実家の大掃除をしたら中学の卒業アルバムがでてきた。
思い出すのは、初恋のあのひとのこと。
誰にでも優しくて、正義感あふれる人だった。
いつも教室の真ん中で人に囲まれてるのに、
端っこで苦しんでる人をひとりにしない人。
教室の隅で苦しんでた私の心を助けてくれた人。
好きだと言えずに、ただただ目で追ってた。
あなたの影に触れるだけで幸せだった。
卒業アルバムのホコリを払い、ページをめくる。
卒業アルバムの最後のページのフリーページに、
みんなで言葉を寄せ書きし合うのが恒例だった。
きっと、私のフリーページに寄せ書きしてくれた
同級生の数は他の誰よりも少なかった。
でも、この寄せ書きページに私は感謝してる。
当時、誰にも書いてと頼めずにいた私のところに
初恋の彼が来てくれて、
「俺、字超でかいけど書いてもいい?」
頷くと、彼はニカッと歯を見せて笑った。
油性マジックがキュッキュッと音を立てて、
私の寄せ書きページを埋めていく。
『俺のこと、さん付けで呼ぶの君くらいだけど、なんかこそばゆくて嬉しかった!!高校でも元気でな!!!』
彼は宣言通り超がつく大きな文字で私のフリーページを
ひとりで埋め尽くしてくれた。
私は少しだけ薄れてるその字をなぞり、鼻歌を歌った。
「あの頃の生き方を、あなたは忘れないで
あなたは、私の、青春そのもの」
「泣かないで」
やまない雨はないから、いつかこの涙も枯れるはず。
願わくば、いつかじゃなくて今枯れてほしい。
今すぐに涙を流した痕跡全て消し去ってほしい。
そしたら、あなたに言ってあげるの。
「私なら大丈夫」って、笑顔で言ってやる。
でも、現実は涙でグシャグシャの顔だから。
泣きながら「大丈夫」と言ってもカッコ悪いだけだった。
大丈夫、大丈夫だから、優しいあなたとの思い出で
私は生きていけるから大丈夫。
お願い、最後にあなたに見せる顔は笑顔がいいの。
だから、今だけでいい。出てくるな、涙。
困らせたくないの、最後まで笑っていたいの。
あなたにも、笑っててほしいの。
「…昔も今も、これからも、、、大好きよ」
そういって私は泣きながら笑ってみせた。
「冬のはじまり」
きれいに色づいた紅葉が終わり、病葉が落ち始める。
クリスマスやお正月まではまだちょっと遠い
このちょっとしんみりした空気がなんとなく好き。
ちょっとだけさみしい私が許される気がするから。
冬がはじまれば、私の抱えている人に言えない感情も
白い息に溶けて空に消えていく。
今年もはやく、冬がはじまればいい。
○○○○私の話○○○○
冬って聞くと、「雪が溶けると何になる?」という
質問を思い出します。
「水」という答えもありますが、
私は「春」と答える人に惹かれます。
(私自身は初めてこの質問されたとき「水」と答えました)
雪が溶けて、水になれば、春が訪れる。
現実的な人、先を見据える人、夢をみる人…
私が知っているよりも、もっともっと色んな人がいて、
世の中にはたくさんの疑問や謎があふれてて、
疑問の答えも一つじゃなく人の数だけある。
そんな当たり前のことを、この質問を受けたとき
私は知り、嬉しくなりました。
と、いう自分語り失礼しました(笑)
「終わらせないで」
あなたはいつも勝手だった。
告白してくるタイミングは最悪。
トイレの前で普通告白する?
付き合ってからも勝手だったよね。
デートはサプライズという名のミステリーツアー。
場所を勝手に決めるわ、ロマンチックの欠片もない場所。
誰があんなクソ暑い日に秘密基地作るのよ、小学生か!
それでも、いつも表情がクルクルかわって、
それを隣で見てるのは楽しかった。
私のことを好きだと全身で表現してくれるあなたに、
そっけない態度ばかりとる私。
そんなところも好きだと言ってくれるあなたに
私は、甘えてしまっていた。
でも、あの日から変わってしまった。
変えてしまったのは、きっと私の放ったあの一言。
「あなたのそういうとこ、だいっきらい!」
それから、あなたとの連絡がとれなくなった。
当然、全身で表現されてた愛情がなくなって、
サプライズデートで振り回されることもなくなった。
なのに、可愛げない私は、ごめんって言葉すら
どうしても素直に口に出せなかった。
だから、当たり前のことだと思う。
あなたに会えないのが寂しくて、
連絡しても既読つかないことが悲しくて、
あなたの面影探して、あのクソ暑い日に作った
秘密基地まで行ったら、壊されてた。
近くに、廃材のように転がった秘密基地の残骸。
私は近くに転がってる秘密基地の残骸をひとつひとつ、
拾い集めながら静かに涙を流した。
次もし会えたらちゃんと素直になる。
可愛げはないかもしれないけど、きちんと謝る。
だから、だから。
「………どうか、どうか、まだ終わらせないで」
○○○○○その後の話○○○○○○
「あっ」
ふと、声に気付いて顔を上げると松葉杖のあなたがいて、
泣いたままの顔で見上げた私に驚いたあなたは、
あわてて近づいてきてくれた。
「どうしたの!?お腹でも痛い!?それとも、えーと、、
って、、、え?」
いつもと変わらない態度の彼に、私は抱きついた。
「本当にどうしたの!?大丈夫??やっぱり、どこか…
「ごめんなさい!!ごめんなさい、ごめんなさい。
わがままばかりで、可愛げないけど、
私、あなたのこと手放したくないよ…」」
彼は困惑してたけど、おずおずと抱きしめ返してくれた。
「なにを心配してるのか、よくわからないけど、大丈夫。
僕も君を手放す気はないよ?」
「……………は!?だって、ずっと連絡しても既読すら
つけてくれなかったじゃない!」
「えっ君から連絡くれてたの?嬉しいなぁ。
実は僕、君と最後にデートした日に事故にあっちゃって
スマホずっと見られなかったんだよね」
そういって、松葉杖を手のようにヒラヒラさせた。
「…知らな、かった。私自分のことばっかで、
そんな可能性考えてもみなかった…ごめん」
「ううん、僕も電話とかで連絡しなくてごめんね。
…ちょっと意地悪したくなってさ」
「………は?」
「だって、君、僕のこと嫌いっていった。
正確には、だいっきらい、って言ったかな?」
「それはっ、、、ごめん、なさい。」
びっくりしたような顔をした。
「うん、いいよ。そっけない君も大好きだから。
さて、秘密基地壊れたみたいだし、直そうか!」
「は!?あなた松葉杖でしょ!?」
「大丈夫大丈夫、骨折だから♪」
「なにも大丈夫じゃない!」
私は、勝手で自由なあなたが好き。
あなたは、そっけなくて可愛くない私が好き。
変わり者同士ある意味お似合いかもね(笑)
「微熱」
ほんのり朱に染まった頬。
じんわり汗ばむ額。
潤んだ瞳で見つめるのは彼、、、
ではなく、無機質な天井。
「………さみし。」