「距離」
実家の大掃除をしたら中学の卒業アルバムがでてきた。
思い出すのは、初恋のあのひとのこと。
誰にでも優しくて、正義感あふれる人だった。
いつも教室の真ん中で人に囲まれてるのに、
端っこで苦しんでる人をひとりにしない人。
教室の隅で苦しんでた私の心を助けてくれた人。
好きだと言えずに、ただただ目で追ってた。
あなたの影に触れるだけで幸せだった。
卒業アルバムのホコリを払い、ページをめくる。
卒業アルバムの最後のページのフリーページに、
みんなで言葉を寄せ書きし合うのが恒例だった。
きっと、私のフリーページに寄せ書きしてくれた
同級生の数は他の誰よりも少なかった。
でも、この寄せ書きページに私は感謝してる。
当時、誰にも書いてと頼めずにいた私のところに
初恋の彼が来てくれて、
「俺、字超でかいけど書いてもいい?」
頷くと、彼はニカッと歯を見せて笑った。
油性マジックがキュッキュッと音を立てて、
私の寄せ書きページを埋めていく。
『俺のこと、さん付けで呼ぶの君くらいだけど、なんかこそばゆくて嬉しかった!!高校でも元気でな!!!』
彼は宣言通り超がつく大きな文字で私のフリーページを
ひとりで埋め尽くしてくれた。
私は少しだけ薄れてるその字をなぞり、鼻歌を歌った。
「あの頃の生き方を、あなたは忘れないで
あなたは、私の、青春そのもの」
12/1/2023, 11:41:52 AM