あぁ、この子はなぜこんなに苦しんでいるのだろうか。
母親という名ばかりのポストにいつからわたしはなってしまったのだろう…
ティーンエイジャーの娘は誰よりも繊細なのかもしれない。
まただ…体に傷が増えている
助けてほしいと、気づいてほしいと何度も訴えていたのだろう
誰が、こんなにも辛くするのか概ね見当がつく。
そんなにも沢山傷ついていたのにごめんね
待っていてねお母さん頑張るから
対価はつきものなの
きっと大丈夫よ
だから安心してね。
心だけはブレないように悪魔に魂を売るから
悪魔で報復を。
Prologue=Monologue~誰にも言えない秘密
鼻をかすめていくように、そよそよと風が吹いては流れていく。
まぶたをとじるとまるでベールを纏い踊っているようにも感じる。
眩しくもどこか優しい日差しの中でふと我に返る。
「私はどうしてここにいるのだろう…」
そのことに気づいてから私はどういうわけか、それはとても恐ろしく、言葉に言い表すことができないほどの不安感に襲われた。
そしてそんな私の心をまるで見透かし答えるかのように、突然あたり一面が薄墨をかぶったような景色に変わった。
それでも風だけは変わらずそよそよと流れていた。
だからなのか、そんな状況の中でも何らかのシンパシーを感じていた。
『大丈夫ですか?』
突然の声に体が大きくはねたと同時に、その声がする方を勢いよく振り向いていた。
突然のことで粗くなっている呼吸とうるさくなっている心臓の音をかき消すように少し大きめのボリュームで、
「だ、大丈夫です!お構いなく!」
「ところであなたは誰ですか?ここに私を連れてきたのはあなたですか?」
少し口早く声の主であろう目の前のその人に尋ねた。
するとくすりっとしてその人は、
『さて、どうだろう。きみはどちらだと思う?』
と少し意地悪な答え方をした。
それに対して不快な気持ちになってしまった私は、要求をストレートに伝えた。
「そういうのはいいので、ちゃんと答えてください。本当に困っているのです…」
「元の場所へと早く帰りたいです。お願いします。」
『……。』
「…あれ?元の場所?って…どこ?帰りたいって何?」
本当に何もかも頭の中から消えていて、まるで築き上げた自分の城が誰かの手により崩壊させられ、城主を失った存在しない廃城のようだった。
違和感と不思議な感覚でしばらく言葉を発することができずにいる中、その空気を切るように
『無理に何かを思い出さなくても大丈夫です。だってもうそろそろ…ですから。』
「…え?」
・
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・
➖➖➖➖➖➖(せ…さぃ)➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖(せん…くだ…い)➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖『先生を呼んで来てください!ー…ピ、ピ、ピ、ピ、ピピ
重いまぶたを開けると、ぼやけていてうっすらとしか見えないが白い天井を背に私を見下ろし何だか騒がしくしながら囲む大人たちだとわかった。
どうやら私は事故に巻き込まれ長い間眠っていたようだ。
眠っている間は何かあったような気がするけれど、何だったのかは思い出せない。
しかしこれだけはわかる。無事に帰って来れたのだと。
きみは今、青く澄んだ空のようにきれいな壺の中で小さく胡座をかいて眠っている。
去年の今頃に余命宣告を受けたばかりだった。
そして最期のその時まで必死に生きた。
ありがとう。
いっぱい頑張ったね。
いつかそちらに私が逝くときには、笑顔で迎え入れてほしい。
その時までどうか安らかに。
2024年5月2日 RIP…✠
体調がほんの少し、本当にいつもより少しだけ悪かったから軽い気持ちで病院を受診したらさ
『末期癌です。ほぼ全身に転移していて手術できません。』
とかなんとか重い口調で医者に言われた。
嘘みたいな本当の話。
余命宣告って本当にあるんだね。
時間は有限だって言うけれど命だって同じ。
ただ現実にはまだ今ではないよねって、今までそんなに大きな病気だってなかったじゃん、少し体調が悪いだけだよ?薬飲んだら治るんでしょ?って思った。
医療は進んでいるから、辛いけれど抗がん剤治療をしながら仕事だって取り組んできた。
残りの時間がどれほどかはわからない。
猶予なんてないんだ。
だけど【生きる選択】をしたからには一旦現実を受け入れて、無謀かもしれないが闘おうって今まで頑張ってきた自分自身のためにも固く決心した。
とは言っても言葉とは裏腹にそううまくはいかないんだ。
度重なる抗がん剤の副作用に耐え抜く体力をまずはつけなきゃいけないのだけれど、
思ったよりも副作用は体力を消耗していくんだ。
よく耳にする副作用のありとあらゆる症状は網羅した。
髪の毛は抜けて、色素も薄くなり血色もなくなった。
食欲だってわかないから今までのように食べることもできない。
だから体重は落ちていくし痩せこけた生気のない老人のような見た目になるのにそう時間はかからなかった。
余命宣告をされてから半年ほど経った頃抗がん剤が効かなくなってきた。
痛みが増すばかりでまともに立っていられない。いや、立っていても座っていても痛くてたまらない日々が続き、モルヒネ治療に切り替わることになったのだ。
モルヒネ治療は抗がん剤よりも痛みを緩和してくれるのだけれど、そのかわり仕事へは行けなくなってしまった。
それはまぎれもない事実上の解雇だった。
今となってはわからないけれど、入退院を繰り返していたことで業務に支障が出ていたのかもしれない。
解雇後は入院を余儀なくされたため残された限りのある中でタイミングが良かったのかもしれないと妙に納得した。
入院してから一月が経った現在、殆ど眠っている。
そのため現実なのか夢なのかわからなくなる事が多々あり会話も呂律がうまく回らず会話がまともにできなくなった。
呼吸をする力もあまり残されていないから機械と繋がっている細めの管を通して酸素を吸入している。
生きる選択として生きる希望は持っているが延命治療はやめた。
今までは面会できなかった病院だったけれど、延命治療をやめてから面会ができる病院へ転院した。
北側の日が当たりすぎず、冬だと最悪だけどこれから暑くなる季節にはもってこいの病室だ。
身内や親族、それから友人たちが人数制限こそあるが、代るがわるお見舞いに足を運んでくれるようになった。
なんでもないことを面白おかしく話すわけではなくて、普段の日常と同じような会話。
当たり前こそ幸せなことだと記憶の断片で誰かが口にしていたけれど、その通りだと思う。
面会に訪れたみんなが帰り際に
『またね、明日会いに来るね、頑張ってね』
本当に何気ないこのような挨拶を交わすんだけど、その時は明日なのかもしれない。
もしかしたら明日は来ないのかもしれない。
明日が来ないかもしれないから、そう思って今日を“生きる”。
アトガキ
最後まで読んでいただき誠に感謝いたします。
この話は私が本人ではないのですが、本人の気持ちや視点、それから本人以外の周りの人間(私を含む)の視点で執筆した作品です。
どうかあたたかい気持ちで読んでいただけましたら幸いです。
重ねて御礼を申し上げます。ありがとうございました。
令和6年4月27日
人間は発展的であり進化を遂げ、そして進歩していく。
これらの言葉だけを聞くとポテンシャルが高い人だとプラスに捉えてしまいがちであるが、実際はどうだろう…
いつの時代もどう生きていたのか振り返ると前進はしているのだけれど、その中で挫折や後悔のように苦い経験、つまりマイナスな経験や思いをしてきたからこそ現代があると考える。
失敗は成功のもととはよく言ったものだが、それだけ人間は失敗した方が強くなるということであり、そうして成功へ導いていき一つの時代を築き上げるのだ。
つまり成功=現代=先代の偉人たちが思い描いた未来となるわけだ。
だが現代を生きる我々はどうだろう。まだまだ課題が山積みであり、これからの未来が明るいものになるように各々が先を見据えてアクションを起こしている。
何が言いたいかというと、現代の当事者である我々も先代の偉人たちのように未来を夢見て成し遂げることが可能であり、それらこそが次世代の偉人たちにとってはじめの一歩となるのかもしれない。