鼻をかすめていくように、そよそよと風が吹いては流れていく。
まぶたをとじるとまるでベールを纏い踊っているようにも感じる。
眩しくもどこか優しい日差しの中でふと我に返る。
「私はどうしてここにいるのだろう…」
そのことに気づいてから私はどういうわけか、それはとても恐ろしく、言葉に言い表すことができないほどの不安感に襲われた。
そしてそんな私の心をまるで見透かし答えるかのように、突然あたり一面が薄墨をかぶったような景色に変わった。
それでも風だけは変わらずそよそよと流れていた。
だからなのか、そんな状況の中でも何らかのシンパシーを感じていた。
『大丈夫ですか?』
突然の声に体が大きくはねたと同時に、その声がする方を勢いよく振り向いていた。
突然のことで粗くなっている呼吸とうるさくなっている心臓の音をかき消すように少し大きめのボリュームで、
「だ、大丈夫です!お構いなく!」
「ところであなたは誰ですか?ここに私を連れてきたのはあなたですか?」
少し口早く声の主であろう目の前のその人に尋ねた。
するとくすりっとしてその人は、
『さて、どうだろう。きみはどちらだと思う?』
と少し意地悪な答え方をした。
それに対して不快な気持ちになってしまった私は、要求をストレートに伝えた。
「そういうのはいいので、ちゃんと答えてください。本当に困っているのです…」
「元の場所へと早く帰りたいです。お願いします。」
『……。』
「…あれ?元の場所?って…どこ?帰りたいって何?」
本当に何もかも頭の中から消えていて、まるで築き上げた自分の城が誰かの手により崩壊させられ、城主を失った存在しない廃城のようだった。
違和感と不思議な感覚でしばらく言葉を発することができずにいる中、その空気を切るように
『無理に何かを思い出さなくても大丈夫です。だってもうそろそろ…ですから。』
「…え?」
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➖➖➖➖➖➖(せ…さぃ)➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖(せん…くだ…い)➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖『先生を呼んで来てください!ー…ピ、ピ、ピ、ピ、ピピ
重いまぶたを開けると、ぼやけていてうっすらとしか見えないが白い天井を背に私を見下ろし何だか騒がしくしながら囲む大人たちだとわかった。
どうやら私は事故に巻き込まれ長い間眠っていたようだ。
眠っている間は何かあったような気がするけれど、何だったのかは思い出せない。
しかしこれだけはわかる。無事に帰って来れたのだと。
5/14/2024, 2:29:58 PM