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11/7/2024, 9:50:43 AM

柔らかい雨


君が傘をさして私の方へ振り向いた。

ほら入って


一緒の傘に入って歩くなど、いいのだろうか。
そう言う関係に見えるじゃないか。
いや、私はいいけれども。私は。
君も何を思ってそうしているのか。


私は一瞬の躊躇いの後、君の近くにいられるという欲に負けて、その傘の元へと急いだ。


歩く。

言葉はない。

雨の音が強い。

けれど、君がいると言うだけで。
私はそれだけで。

11/3/2024, 11:52:18 AM

鏡の中の自分


鏡の前に立ってニコッと微笑む。

今日も私は可愛い
可愛い私は好きだ。

鏡の前で1度立ち止まって下を向く

今日は調子が悪い。
外には出ないでおこうか。

鏡の前で今日の自分を観察する。

今日の私は可愛い。
よかった。
まだ私は大丈夫。


街中を歩く。

みんな可愛い。みんなかっこいい。
見た目が全てとは言えないけれど、
見た目が良くなければ全て否定される。

街中を歩く。

醜い人は存在しない。
そう。そんな人はいない。
だって視界に入らないから。

少し立ち止まって観察する。

醜い人は存在しない。
だって外に出ないから。
人の目に映らないように自分から姿を消すの。

不安になり鏡を見る。
私は存在する権利があるだろうか。

11/1/2024, 3:02:12 PM

永遠に


君は目覚めない。
それを私は知っている。

君は棺の中に静かに横たわっている。
やっとだ。

私は片膝をつき、より近くから君を見つめる。

そう。
私は永遠など信じないのだ。
君は嘘をついた。

違う。
私が本当にしてしまえばいい。

でも私はあのままでいたかった。


君の頬に手をすべらせ、ぎこちなくほほえむ。

ずっと、
永遠に、
一緒だと。

10/31/2024, 10:34:42 AM

理想郷 ユートピア


死んだら天国に行ける?
否。天国など存在しないよ。

君は私の言葉など耳に入っていないように、窓の外を見つめ続けている。


みんなが幸せな世界だといいね。
そんなものは空想上にしかないよ。

君は否定ばかりする私に少しへそを曲げたのか、少し怒った顔でこちらに向いた。


嫌なことなんて全部無くなっちゃえばいいんだ。
ある程度のストレスは必要な刺激だ。
刺激がない世界はひどく退屈だからね。

君はそういうことが言いたいんじゃないとでもいいたげに、不貞腐れたようにまた外に目を向けた。


私はため息をこぼし言葉を紡ぐ。

全部無くなればいい。
全て、全てだ。
思考も感情もなければ苦しまなくていい。

君は呆れたようにこちらに振り向いて、一瞬なにか言おうと口ごもった後、また外を見つめた。

10/30/2024, 4:03:36 PM

懐かしく思うこと


将棋を指す音

将棋盤の前に胡座で座り片膝を立てる。
たまに聞こえる駒を置く音。

駒の行く末を考えているんだろう。
片膝に体重をかける傾いた体制なのに、微動だにしない。
そんな兄の背中に、私はいつも緊張感と同時に心地良さを覚えていた。

そうだったはず。
心の感覚など覚えてないが、そうだったと記憶している。



過去は変わらない。
振り返っても私に何かを与えてくれることはない。

記憶として存在する過去は、総じて心を締め付ける。

幸福な思い出はいつしか記号になり執着になる。
苦しい思い出はいつまでも心に棲みつく。



過去なんて思い出さない方がいいのだ。

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