また会いましょう
死にゆく人にこの言葉はどうなのだろう。
向こうで待っていて
待っていてなんて言葉で縛り付けるのは酷いのでは。
向こうは向こうで自由に過ごせばいい。
君にかける言葉が見つからない。
白い部屋、白いベッド、横たわる君。
いつもは繋がっている無数の機械は、今はもう一つだけだ。
君の細い手を両手で包む。
君はもう助からない。
知っていた。
君も知っていた。
天国なんてものはない。
来世なんてものもない。
そんな君にかける言葉を探し続けた。
スリル
高いところにいる。
一歩進めばストンと落下するだろう。
怖い。
大丈夫だよ。慣れれば楽しいから。
ほら。
君は叫び声を上げながら落ちて行く。
何が楽しいだ。
生きている実感が湧くだ。
怖いものは怖い。
だが後にも引けない。
一歩を踏み出す。
自分を殺す時が来るのならば、今の自分と同じ気持ちかもしれないと思った。
飛べない翼
君は飛ぶことができない。
俺が閉じ込めてしまったから。
君が悪いんだ。
ふらふらとどこかへ行ってしまうから。
折れた羽を優しく撫でる。
なんでもないことの様に治療を施して、
そしてまたなんでもないことの様に折る。
最初から翼なんてなければよかったのに。
君が眠りから覚める。
何もわかっていない君に、
俺は心配そうな顔をして、優しくして、
君の心を閉じ込める。
ススキ
学校からの帰り道。
君が私の少し前を歩いている。
話しかける勇気なんてなくて、追いつかないようにゆっくり歩く。
周りを少し見渡せば、道には落ち葉が沢山。
道路脇にはススキがはえている。
少し立ち止まって、その風景を見ていたら、
君はどこか見えないところに行ってしまった。
脳裏
君が私の手を引いて階段を登る。
階段の先にとても幸せな何かがあるらしい。
「 」
君が何を言っているのかが聞き取れない。
でも、とても楽しそう。
私も楽しい。
「 」
何を話しているのかは分からない。
階段の先はもうすぐだ。
ゆめだ
違う。
いやだ。
目覚めたくない。
この先に私は行きたい。
君と一緒に階段を登り切りたい。
君はいつの間にか消えて。
階段は存在せず、
いつもの風景だけがそこにあった。