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10/31/2024, 10:34:42 AM

理想郷 ユートピア


死んだら天国に行ける?
否。天国など存在しないよ。

君は私の言葉など耳に入っていないように、窓の外を見つめ続けている。


みんなが幸せな世界だといいね。
そんなものは空想上にしかないよ。

君は否定ばかりする私に少しへそを曲げたのか、少し怒った顔でこちらに向いた。


嫌なことなんて全部無くなっちゃえばいいんだ。
ある程度のストレスは必要な刺激だ。
刺激がない世界はひどく退屈だからね。

君はそういうことが言いたいんじゃないとでもいいたげに、不貞腐れたようにまた外に目を向けた。


私はため息をこぼし言葉を紡ぐ。

全部無くなればいい。
全て、全てだ。
思考も感情もなければ苦しまなくていい。

君は呆れたようにこちらに振り向いて、一瞬なにか言おうと口ごもった後、また外を見つめた。

10/30/2024, 4:03:36 PM

懐かしく思うこと


将棋を指す音

将棋盤の前に胡座で座り片膝を立てる。
たまに聞こえる駒を置く音。

駒の行く末を考えているんだろう。
片膝に体重をかける傾いた体制なのに、微動だにしない。
そんな兄の背中に、私はいつも緊張感と同時に心地良さを覚えていた。

そうだったはず。
心の感覚など覚えてないが、そうだったと記憶している。



過去は変わらない。
振り返っても私に何かを与えてくれることはない。

記憶として存在する過去は、総じて心を締め付ける。

幸福な思い出はいつしか記号になり執着になる。
苦しい思い出はいつまでも心に棲みつく。



過去なんて思い出さない方がいいのだ。

10/29/2024, 10:51:22 AM

もうひとつの物語


ここに一つのプリンがある。
私はこれを食べてもいいし、食べなくてもいい。


目の前には机の上にプリンが乗った皿が一つと、スプーンが置いてある。
まるで食べてくださいとばかりの配置だ。


目の前に座っている君が、私が食べるのを期待している目で見てくる。

上手にできたよ


私はスプーンを手に取り、プリンをすくい、口に入れた。
咀嚼し、甘さを味わって、飲み込む。


食べない選択肢などないのだ。


君は嬉しそうにこちらを見て笑った。

美味しいでしょ


私は食べながら頷く。

食べない選択肢を選ぶことで開ける物語があるとして、私はそれを選ばない。

この選択肢が絶対いいに決まっているのだから。


もう一つの物語は、始まることはない。