さやは

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10/24/2023, 10:18:06 AM



「行かないで」

 そう言っても無駄だってわかってるのに言ってしまう。





 駅のホームで彼に抱きつく。これからしばらく会えないだろうから。
 今日は彼氏が引っ越す日。私達はまだ中学生ーー受験生だから、一人で残るという選択肢がないのだ。だから仕方なく離れることになった。
 彼はもう心を入れ替えて心機一転、新しい場所でもうまくやっていこうと試みている。
 対して私は……………。
 彼と遠距離恋愛になるという現実を受け入れられていない。
 今まで毎日一緒に登校して、土日は予定がなかったら二人で買い物をして、一緒にテスト勉強をして。
 彼とずっと過ごしてきていたのだ。彼がいない毎日が来るなんて考えたくもない。だから私はずっと「行かないで」と言い続ける。
「駿!電車が出発しちゃうわよ!」
 彼のお母さんが電車のドア付近で声を上げる。
 もう、行かなきゃなのか…………。私は彼の腰に回していた手を離す。しばらくお別れだ。
 その刹那ーー
「由紀乃、」
「?」
彼は私の名前を呼ぶと顔を近づけてきた。
 唇が重なる。私は不意打ちの口付けをされた。
 吐息とともに重なっていた唇が離れる。それと同時に発車チャイムが鳴り始めた。
 彼は急いで電車に乗る。そしてこっちに顔を向けた。





 その時に見せてくれた笑顔は過去一眩しかった。数年たった今でも、脳裏と瞼に焼き付いている。
 でももう見れないのか。私は彼の仏壇の前で思った。
 今でも彼に言いたい。
「いかないで」


【行かないで/2023.10.24】

10/23/2023, 11:26:58 AM


 どこまでも続く青い空を見て思う。

 「終点はどこなんだろう」

 何事にも終わりは来る。
 じゃあ、この空にも終わりはあるのか。


 とか、深読みして考えてみたけど、
 空ってそういえば宇宙のことだった。
 宇宙に終わりなんて存在しない。
 じゃあ永遠に続く空なのかあ…。



 こんなにきれいな色してさ、
 人間は美人ほど短命だ、とか言われるじゃん。
 なんで消えないんだろう。

 私みたいに周りから「綺麗だ」っていわれるのに。
 私みたいに短命じゃない。
 羨ましいなぁ。
 空になりたいな。
 どこまでも続く、寿命のない、きれいな空みたいに。 


【どこまでも続く青い空/2023.10.23】

10/22/2023, 3:55:04 PM



 今年も、衣替えの時期がやってきた。
 もう夏かと思う。この前まで春だったような気もする。
 私の学校には「衣替え移行期間」というのがある。
 その名の通り衣替えをする期間なのだが、その期間中は夏服でも冬服でも着ていいのだ。ただし混ざったような服装はダメ。
 今日は気温が高くなりそうだ。ということで私は夏服を着ていくことにした。
 ワイシャツの上にベストを着る。スカートは冬服より少し生地が薄め。ワイシャツも半袖でいいだろう。
 私は家を出た。少し肌寒いと感じたが、支障はないだろう。



 学校の昇降口で靴を履き替えると、何故かくしゃみが出た。身体が冷えてしまったのだろうか。
 そこへ後ろから、
「風邪引いた?」
と先輩の声がした。
 先輩は何でもできてかっこいい。私の憧れの先輩。部活でも練習に一生懸命で、しかも社交性がある。
 そんな先輩に話しかけられた。
 私は心配をかけたくなくて「風邪なわけないじゃないですかー」と笑って誤魔化す。その直後にまたくしゃみが出た。こんなことになるなら夏服にしなければよかった。
「そんなんじゃ説得力ないんだけど。ほら、これ着ろ。
 寒いんだろ?」
「えっ、」
 私は先輩から、冬服のブレザーを受け取る。借りても良いのだろうか…。
「部活のときに返せよ?それじゃ。」
 先輩はそのまま階段を上がっていってしまった。


 すん、と鼻で嗅ぐ。
 ブレザーからは先輩の匂いが微かにした。
 少しサイズが大きいブレザーを着る。
 ブレザーを貸してくれたときの先輩の優しい顔が頭に浮かんだ。
 胸が少しだけ、大きく脈打った。


【衣替え/2023.10.22】