緊迫した状況。
今にも逃げ出したくなるような。
喉から得体の知れない何かが
飛び出してしまいそうな。
一瞬でも気を抜けない。
汗が頬を伝い下へと落ちる。
それでも、
相手の先を行くしか
勝機はない。
かちり、かちりと
針の刻む音が脳内で谺する。
互いにその時を、待っている。
どちらかが一寸でも動けば。
その瞬間が、時が再開する合図だ。
───『時を告げる』(2024.09.06.)
何も無い、休みの日。
近くの海でよく暇を潰す。
人が多いのは嫌だから、
シーズンから外れた時期。
泳ぐわけでもなく、ただただ歩く。
ときたまちゃぷ、と波を揺らして。
足元を見ると、たくさんの貝殻。
きれいな乳白色。
砂に溶け込む色も、自然で良い。
集めて、家に飾る。
不定期に数が増えていく。
いつしか、室が浜辺になる。
───『貝殻』(2024.09.05.)
普段の印象は、ぱっとしないやつ。
交友も、成績も。
ああ、クラスにひとりはいるな、
その程度だった。
あいつを見かけたのは
きょうだいと偶然行った軽音のコンサート。
外見に頓着はないようで
舞台に立つから、程度に整えた姿。
ほぼ普段と変わらない。
違ったのはど真ん中に立ってギターを構えてたこと。
ドラムのカウントで始まる。
その瞬間、観客も沸き立つ。
驚いたんだ。
あんなにも瞳を輝かせて演奏していたから。
真っ昼間の屋外で、
夜に瞬く星のように。
何もかもが、彩やかだった。
───『きらめき』(2024.09.04.)
どんなことでも、知りたいと思ってしまう
それはいけないことなのでしょうか
あなたの喜び、哀しみ
はたまた怒り、楽しみ
あなたの一挙一動
一挙手一投足
隅々までも、知りたい
わかってあげたい
傲慢なのはわかっている
自己満足でしかないことも
けれども自分からは
動けないでいる
今日も、あなたの様子を見守るだけ
───『些細なことでも』(2024.09.03.)
つめたく、きびしい。
けれど、どこかあたたかい。
それがひとというものなのだろうか。
ぽつり、と。
まわりをほのかにあたためる。
ろうそくの灯のように。
ひとのかずだけ。
こころのともしびはある。
───『心の灯火』(2024.09.02.)