#蝶よ花よ
蝶よ花よと両親に育てられた兄は成人して直ぐに家を出ていき、今では音信不通。
僕は、両親に疎まれて育てられた。
何をやっても兄と比べられ、出来損ないと罵られた。
それなのに、なぜ僕がこんな両親の世話をしなければならないのか。
両親は「あなたのためだったのよ」と耳触りの良い言葉を並べているが、それでも僕はこいつらに虐げられた日常が思い出される。
こんなヤツらどうでもいい。
だから僕は決めた。
同じことをしてやろうって。
金は出してやる。
でもそれ以外は絶対しないし、なにかある度に罵ってやる。
それが僕からの最大の親孝行さ。
#最初から決まってた
あなたと離れることになるなんて、最初から決まってたこと。
わかってた。分かってたはずだったのに。
こんなに悲しくなるなんて思っていなかった。
あなたは私にとって神にも近しい方でした。
あなたが言えばこの命すら投げ出す覚悟がありました。
しかし、あなたが私に命令したのは生きろということだけ。
私は最初あなたを殺そうとしたのに。
あなたもそれを理解していたはずなのに。
それでも最期の命令は私が生きること。
あなたは優しすぎた。だから命を落とした。
少しだけ待っていてください。
私はあなたの命令に従い、生きましょう。
生きて、生きて、生きて。
寿命で死んで、そしたらすぐにでもあなたの所へ馳せ参じます。
その時は私の話を沢山聞いてくださいね。
あなたが死んだ後のこの世界が紡いだ物語を。
#太陽
燦々と太陽が照りつける。
辺りからはジージー、ミンミンとセミの鳴き声が聞こえる。
あぁ、夏だ。
僕の嫌いな夏が来た。
暑くて堪らない夏だ。
水泳なんて言う授業がある夏だ。
虫が活発な夏だ。
人が浮かれる夏だ。
ただリア充共が浮かれに浮かれる夏が来た。
ボクは予定なんかないのに。
あぁ、夏なんか無くなれば良いのに。
そう思わずにはいられなかった。
#鐘の音
私が居る所から遥か彼方。
鐘の音が聞こえる。
何を知らせる鐘だろうか。
今は深夜。普通なら鐘がなるような時間じゃ無い。
なにかあったのか。
確認したいところではあるが、それは出来ない。
ここは山の上のポツンと建てられた屋敷。
誰かに聞こうにも、この屋敷に居る人間は誰1人聞こえていないだろうし、何も知らないだろう。
あぁ、私に自由があれば、今頃ここから抜け出して、駆けて駆けて駆けて、山の麓まで行き、何の鐘の音なのか確認しに行くのに。
口惜しい。この足が自由なら、私の体が自由なら、出来ただろうに。
仕方ない。眠ろう。何も考えず、ただ瞳を閉じて、体を休ませる。
だって私は何があろうと山の麓まで行けないのだから。
――山の上の屋敷に閉じ込められた少女は独りごち、眠りについた。彼女が次に目を覚ますのはいつになることやら。それを知るものはどこにも居ない。
#つまらないことでも
高校生の頃、普通ならつまらないことでもお前と一緒だとなんでも楽しかった。
今日、あれが楽しかったなと思い出して1人でやってみたけど、全然面白くなくて、あれはきっとお前と一緒にやったバカだから楽しかったんだよな、と改めて感じたよ。
あれから十数年、また会いてぇなぁ。
そうは思うが叶うことは無い。
だってお前はその年の夏、今日みたいなくそ暑い日にトラックに轢かれて死んだから。
また今年もお前のとこに行く。今日のこの話を土産にな。
だから待ってろよ、いつもの時間に墓の前で。