どうして優しい君が傷付かなくてはいけないのか。
この世界は、どうして報われるべき人が報われないのか。
一人を犠牲にして成り立った見掛け倒しの平和に、何の意味があるのか。
君が、君だけが、こんなに理不尽な扱いを受けるのならば。君が幸せになれない世界ならば。
こんな世界はいらない。
間違った世界を正さなくてはいけない。
君がもう苦しまないように。
『どうして』
布団から出たくない。
ずっと夢を見ていたい。
寒くて外に出られない。
仕事なんて行きたくない。
現実がこの一枚の布を隔てた向こう側で待っている。
剥ぎ取られれば、もう、夢は終わりだ。
せめてあと五分、あと五分だけ……。
『夢を見てたい』
この距離が心地良くて、ずっとその場に居座ってしまう。
君の優しさに甘えて、わがままを言ってしまう。
君は呆れながら笑うけど、それでいい。
ずっとこのまま、君の傍に居られるなら。
君に大切な人ができたと言う。
本当は、このままでいい筈がないって、わかっていた。
いつかはこんな日が来るだろうと知っていた。
元々、どう足掻いてもきっと手に入らないだろう場所だった。だからこそ、許される限りの傍にいたんだ。
ずっとあのままでいたかったな。
涙が一筋零れた。
『ずっとこのまま』
寒空の下、立ち尽くす。
木枯らしに独り吹かれる。
パチンコに負けて、無一文の俺。
寒さが身に染みる。懐の寒さも身に染みる。
あまりの情けなさに、頬に一筋のしょっぱいものが流れる。
今日の晩ご飯は冷蔵庫の野菜室に眠ったもやしかな……塩分はこの涙で足りるだろうか……。
溜め息が出る。体だけじゃなく、心も寒かった。
『寒さが身に染みて』
戸棚の奥に仕舞われた酒瓶を引っ張り出す。
自分と同じ生まれ年のワイン。
とうとう飲めるようになった。
『お前が20歳になったら一緒に飲むのが夢だ』と、用意されたワインだった。
コルクを静かに開ける。
2つのグラスにワインを注ぐと、その1つを天に向けて傾けた。
「乾杯」
『20歳』