貴方への想いが降り積もっていく。
たくさんたくさん。
貴方の為に何でも買った。
CDも、Tシャツも、タオルも、ペンライトも、缶バッジも、アクリルキーホルダーも、アクリルスタンドも、何でも。
貴方が欲しくて。
貴方の為に何でも作った。
うちわも、メッセージボードも、ポンポンも、痛バッグも、何でも。
貴方を支える為に。
貴方への想いが降り積もっていく。
貴方への想いが降り積もり過ぎて――。
部屋の床が抜けた。
『降り積もる想い』
家の中を整理していると、鏡台の引き出しの奥の方から、古い箱が出てきた。
その箱を開くと、かわいらしいリボンの髪留めが入っていた。
そのリボンには見覚えがあった。
どこで見たのか記憶を探る。そして思い出した。
書斎の一角にまとめられたアルバムから、それを見つけ出した。
母の、私が生まれる前の写真。
母と父が寄り添って笑っている。その母の頭に乗っているのが、まさしくこのリボンだった。
母の宝物だったのかな。
だって、この写真の母は特別幸せそうに見えた。
その、母のリボンの髪留めを、自分の頭につけてみる。
笑った顔は、母にそっくりだった。
『時を結ぶリボン』
「今年はサンタさんに何をお願いするの?」
今年引っ越してきたばかりで、まだ周りに慣れていない。友達とも離れ、さぞかし寂しい思いをしているだろう。
せめてクリスマスだけでも盛大に。プレゼントも豪華にして楽しんでもらおうと、お母さんが女の子に尋ねた。
女の子はその言葉にすぐさま目を輝かせた。
「キラキラしたもの!」
キラキラしたもの? 宝石とかそういう?
さすがにそれはまだ早い。おもちゃの宝石でいいだろうか。
そうしてプレゼントを決め、クリスマス当日がやって来た。
天気は悪く、厚い雲が空を覆っていた。
「今日は冷えるわねぇ」
予約していたケーキを受け取りに、お母さんは女の子と共に道を歩いていた。
突然、女の子が声を上げた。
「キラキラ!」
「え?」
女の子がお母さんに向かって手を差し出す。
手袋をはめたその手の平の上に、小さな雪の結晶が乗っていた。
「……雪?」
見上げると、雪が舞い出していた。
今まで南の方に住んでいた女の子が雪を見るのは、これが初めてだった。
「キラキラ! わぁー」
「キラキラって……」
「サンタさん、ありがとう!」
女の子が喜ぶ顔を見て、お母さんもサンタクロースに感謝した。
『手のひらの贈り物』
私は端数の存在。どこへ行っても余り物。
小さい頃からそうだった。最後に残されるのは私だ。
たとえば、仕事でも。いつ切り捨てられてもいいような、いつもそんな位置にいる。
たとえば、恋愛でも。誰かの隣にいることも叶わない。端数なのだ。手を伸ばしても届かない。大切な人の隣には、必ず私以外の大切な人。
日曜の朝。ホームに滑り込んできた電車は気怠そうに。乗り込むと、ゆっくりとまた走り出した。
透き通るような青空が、窓の外に広がっている。
どこへ向かおうとしているわけでもなく、ただぼーっと電車に揺られながら、窓の外を眺める。
このまま消えてしまっても、誰にも気付かれない。誰の記憶の片隅にも残らない。
たとえば、私の存在で誰かが傷付くとしたら。同じように私も傷付いていたとしても、端数である私が消えるべきなのだ。
それでも、もし誰かが私のことを少しでも心の片隅に残してくれるのなら。
そう言ってくれる誰かの存在があるならば。
それがたとえ、口先だけでも。私自身がそれを知っていたとしても――私はまだ、生きていける。
世界の片隅で、そんなことを思う。
『心の片隅で』
ずっとある人を待ち続ける少女がいた。
――何処へ行ってしまったの? きっと帰ってくるよね?
そう信じていたのに、いつまで経ってもその人は戻ってこなかった。
裏切られたと、少女は思った。
怒りと悲しみが入り混じって、洗い立てのテーブルクロスにまるでコーヒーを溢したかのように、白は黒へと染まっていった。
信じる心はもう失った。コーヒーカップは倒れたまま。
ここは閉ざされた闇の世界。世界に白は存在しない。
そんな風に思っていた。
「雪です」
嬉しそうに息を切らして、1人の少年が部屋へと入って来た。
「雪?」
白を失った少女が、少年に尋ねる。
「はい。雪が降ってきたんですよ!」
少年の言葉に、少女は立ち上がって窓の外を眺めた。真っ白いものが、空からたくさん零れ落ちている。
「白……」
「珍しいですよね。この辺りに、こんなに雪が降るなんて」
少年の嬉しそうな声を背に、少女はその景色をぼんやりと見つめていた。
「雪、綺麗ですよね。折角ですし……楽しみましょう!」
少年が少女の手を引いて、外へと飛び出す。
世界は一面、白で覆われていた。
「たまにはいいですよね。こんな景色も」
ずっと見ていなかった。
目が痛くなるくらいの、白。
雪は、全ての音を吸収するように、静かに降り続けている。
「――――」
その静けさは、少女の心の叫びまでもを掻き消してしまう。
信じないって心に決めた時から、少女にはもう黒しか見えなかった。
目の前は全て闇に覆われていた。
それなのに、降り積もる雪は白く輝いていた。
「雪って、こんなに白いんだね」
黒く汚れたテーブルクロスは、白い雪に隠されてしまった。
雪が溶けてしまっても、水へと変わって、それはきっと黒い汚れを流していく。
真っ白には戻らなくても。
今なら少しは……許せそうな気がした。
雪の、白の眩しさに、少女は目を細めた。
少女の口許が、心なしか緩んでいた。
『雪の静寂』