キンモクセイの独特な甘い香り。
その香りに誘われるよう歩いていると、知らない喫茶店に辿り着いた。その名も『喫茶店キンモクセイ』。
こんなところに喫茶店なんてあったっけ? まぁせっかくだし入ってみようかな。
「いらっしゃいませー」
案内された席に座り、辺りを見回す。昔ながらの喫茶店といった雰囲気だ。懐かしさを感じる。居心地が良い。
「ご注文何にしますか? オススメは、この、キンモクセイの花びらがブレンドされた紅茶です」
「じゃあそれを」
しばらくして紅茶が運ばれてきた。私を誘った甘い香りが鼻腔をくすぐる。紅茶を口にすると、秋の風で少し冷えた体を優しく包んでくれた。
「美味しいです」
「ありがとうございます。お好きですもんね、それ」
「え?」
まるで私の好みを知っているかのような口ぶりだ。
「どうして……」
「だって、去年も頼んでましたよね。気に入ってもらえたようで何よりです」
去年?
私は去年もここに来ている? たしかに、この店に入った時に懐かしさを感じだ。それは、私がここに来たことがあるから?
そんなことを考えていると、だんだん眠気がやって来た。それがまた心地良くて、ゆっくりと瞼が落ちていった。
「来年もまたお待ちしております」
遠くで店員の声が聴こえた。
……いつの間にか眠っていたようだ。
公園のベンチで目を覚ました。辺りには一面のキンモクセイ。
キンモクセイ……何かあった気がする。この香りに包まれて、どこか、居心地の良い場所にいたような。
夢でも見ていたのか。
はっきりとは思い出せないが、キンモクセイが香る頃、またあの場所へ辿り着けたらいいなと思う。
『キンモクセイ』
行かないでと願ったのに、神様は聞き入れてくれなかった。どんなに望んでも、連れて行ってしまった。
あの幾千の星の中で、君は輝いている。
いくら伸ばしても届かないとわかっている。それでも、手を伸ばす。
いつか君と逢えますように。
『行かないでと、願ったのに』
綺麗に飾っておきたいと、標本にして集めている。
誰にも見せたくない。大事に隠しておきたい。
たくさんの大切な人を、そのままの姿で。誰かを愛するたびに、こうやって飾ってきた。
いつまでも一緒にいるから。愛してるよ。
このコレクションが増えていくのが楽しみだ。
『秘密の標本』
寒い……。もう冬も近い……。
布団から出たくない……。
せめてあと五分……。
そんなことをしているうちにこんな時間になりました。
『凍える朝』
光があるから影ができる。
でも、影があるから光がわかる。
真っ暗闇にいる私をそこから引き摺り出してくれたのは、あなたという一筋の光だった。
光と影が一緒にいるなんて。そう思うこともあるけど。
あなたが、私と一緒にいたい。と、そう言ってくれるから。
私は、あなたの隣で、私でいられるんだ。
あなたは私のことを光だと、自分は影でしかないと嘆くけど。
違うんだよ。
私にとっての光はあなただった。
影のない人間なんていない。私だって影なんだ。
それでも、あなたが隣にいるから。だから、私は、あなたにとっての光でいられる。
私達は影であり、お互いにとっての光なんだ。
『光と影』