川柳えむ

Open App

 キンモクセイの独特な甘い香り。
 その香りに誘われるよう歩いていると、知らない喫茶店に辿り着いた。その名も『喫茶店キンモクセイ』。
 こんなところに喫茶店なんてあったっけ? まぁせっかくだし入ってみようかな。

「いらっしゃいませー」
 案内された席に座り、辺りを見回す。昔ながらの喫茶店といった雰囲気だ。懐かしさを感じる。居心地が良い。
「ご注文何にしますか? オススメは、この、キンモクセイの花びらがブレンドされた紅茶です」
「じゃあそれを」
 しばらくして紅茶が運ばれてきた。私を誘った甘い香りが鼻腔をくすぐる。紅茶を口にすると、秋の風で少し冷えた体を優しく包んでくれた。
「美味しいです」
「ありがとうございます。お好きですもんね、それ」
「え?」
 まるで私の好みを知っているかのような口ぶりだ。
「どうして……」
「だって、去年も頼んでましたよね。気に入ってもらえたようで何よりです」
 去年?
 私は去年もここに来ている? たしかに、この店に入った時に懐かしさを感じだ。それは、私がここに来たことがあるから?
 そんなことを考えていると、だんだん眠気がやって来た。それがまた心地良くて、ゆっくりと瞼が落ちていった。
「来年もまたお待ちしております」
 遠くで店員の声が聴こえた。

 ……いつの間にか眠っていたようだ。
 公園のベンチで目を覚ました。辺りには一面のキンモクセイ。
 キンモクセイ……何かあった気がする。この香りに包まれて、どこか、居心地の良い場所にいたような。
 夢でも見ていたのか。
 はっきりとは思い出せないが、キンモクセイが香る頃、またあの場所へ辿り着けたらいいなと思う。


『キンモクセイ』

11/4/2025, 10:59:12 PM