傷付いた心を癒すため、私は旅に出ることを決意した。
とりあえず今は大阪・関西万博が話題の為、大阪まで行くことにした。パビリオンの予約は取れなかったが、なかなかに楽しかった。
せっかく大阪まで来たので、USJにも行った。遊んだ。一人でも十分楽しかった。
ついでに周辺の県にも行くことにした。兵庫、京都、奈良、和歌山……。各地の観光地を巡り、とても楽しかった。
満足した。本当に。
やっぱり旅って最高だ。……なんで旅に出たんだっけ?
『センチメンタル・ジャーニー』
見上げた空に浮かぶ月があまりに綺麗で、たまたま一緒にいた子に「見てみて! 月がめちゃめちゃ綺麗!」って言ったら、「ありがとう。私も好き」って言われた。
どういうことかと思ったら、夏目漱石が「I love you」を「月が綺麗ですね」って訳したみたいな本当かどうかよくわからない話があるらしくて。
じゃあどうやって月の美しさを他の人に伝えたらいいんですか。本当にその子とはたまたま帰り道で一緒になっただけなんです。
どうしたらいいですか? 助けてください。
『君と見上げる月…🌙』
忙しい。忙し過ぎる。
本当にここ数日は忙し過ぎて、帰宅してからも仕事して、睡眠時間は毎日3時間くらいで。
ふらふらになりながらも、趣味の執筆活動だけは続けている。
でも、とにかく、もう疲れた。
この忙しいのももう少しだけだけど、本当に休みたい。
キリがいいとこで、一瞬手が止まる。
疲れて、何も考えられない。
せめて、休憩がてら、執筆でもしようかと手を動かすが、やはり何も考えられない。
頭が空白で埋まっていく。
あー……もう無理だ。
少しだけ瞼を閉じた。
『空白』
台風が過ぎ去った。
『台風一過となった今日は、各地で晴れ間が広がり、青空が戻ってきています』
ニュースから流れる言葉の通り、見上げれば青空が広がっている。
私はこの言葉を聞くたび、小さい頃はこう思っていたな……と思い出す。『台風一家』って、なんか家族みたいなたくさんの台風が来てるのかな、とか。でもその割には晴れてるよね、とか。
他にも『波浪警報』を『ハロー警報』。気象関係ではないけど、『汚職事件』を『お食事券』とか。
他にも『加齢臭』を『カレー臭』、『東名高速』を『透明光速』、『土用の丑の日』を『土曜の牛の日』……とかね。
あるよね。脳内の変換が間違っていて、どういうこと? ってなってたもの、たくさん。
大きくなるにつれ、あーそういうことだったのねーって知ること、たくさん。
……え? 『怪盗乱魔』って、本当は『快刀乱麻』なの? そういう、なんか、悪魔とかみたいな怪盗の漫画じゃないの? 複雑な事件を見事に解決することの四字熟語? それこそ、そういう漫画ありそうじゃん。もうそれでいいじゃん。……知らなかったー。
(実際にそういうタイトルの本はあるみたいです)
『台風が過ぎ去って』
何度目の報告になるだろうか。
もう私は一人きりになってしまった。
無理なお願いだとはわかっているが、どうか、私を助けに来てはくれないか。
あぁ。お願いの前に、今回は私の過去を含めた話をしよう。
私はみんなも御存知の通り、火星の調査を目的に、民間人から集められた者の一人だ。
実のところ、私は、確かに宇宙への興味もあったが、本当になりたいものは別にあった。
それはSF作家だ。
しかし私にはてんで才能がなかったものだから、夢を諦めることにした。
そしてなんの気なしに火星の調査に応募してみたところ、まぁ予想外にも、調査員として合格してしまったわけだ。
地球自体には特段執着や拘りもなかった。
たとえそれが片道切符だとしても構わなかった。
こうして私は何人かの仲間と共に、火星へと飛び立った。
火星での生活は過酷を極めた。
全て自分達でやらなければならない。
それは一般的なものではない。
食糧を作ることももちろん大変だったが、この惑星に適応する体を作ることや、謎の病原菌への対処。そしてまさかいるとは思ってもみなかった、見たこともない生物との戦いなんかもあった。
私は起きた出来事を報告と称して面白可笑しく綴り、それを地球へと送り続けた。
そしてその報告書は人気を博し、とうとう書籍化されることとなった。
私の夢が思っていたものとは違うところで形となってしまった。
そのこと自体は素直に嬉しかった。
しかし。
本になったところで、私はそれを手にすることはできない。
本屋に並ぶところを見ることすら叶わない。
今、私は後悔している。
なぜ片道切符を容易く受け入れてしまったのか。
地球に帰りたい。
帰って、私の本が並んでいるところを見て、私の本を手に取りたい。
だから。
誰か、私を助けに来てはくれないだろうか。
私は私の本をこの目で確認することができれば、後はどうなってしまったっていい。
たとえ、私がこの本を面白可笑しくしようと、仲間達をこの手で殺してしまった罪によって投獄されようとも構わない。
どうか、私を地球に帰してくれ。
『ひとりきり』