川柳えむ

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7/21/2025, 11:00:49 PM

「なんで宇宙飛行士になろうと思ったんですか?」
 インタビューで記者が質問を投げかけてくる。
 宇宙飛行士になった私は、近く宇宙へと旅立つ。出発前に、簡単な会見が開かれた。
 その中でされた質問。それは、よくみんなから訊かれる内容だった。
「そうですね。小さい頃、ライカ犬の話を読みまして」
 ライカ犬――1957年、人間より先に宇宙へと旅立ち、そして、星になった犬のことだ。
 その話を初めて読んだ時、私はとても悲しい気持ちになった。宇宙への第一歩として、仕方のない犠牲だったと言われても。何よりも先に悲しい気持ちになった。そう思うのは、きっと私だけではないだろう。
 それから、ライカの写真も見た。その時、何かを感じたのだ。それが何なのかなんてわからない。けれど、迎えに行きたいと思った。
 ライカが乗っていたスプートニク2号は、もう燃え尽きて存在しない。それはわかっている。けれど、ライカは星になってきっと宇宙にいる。私達を照らしている。
「――それで、私も、宇宙へ行ってみたいと思ったのです」

 前日、私は夢を見た。
 ライカと一緒に駆け回る夢。
 ライカはすばしっこくて、なかなか捕まえられない。
 少し先を行くライカが、こちらを振り返って「ワン!」と鳴いた。
 まるで、先に行っているよ。とでも言うように。

 私はこれから宇宙へと旅立つ。
 星になった君を追いかけて、長い旅に出る。


『星を追いかけて』

7/21/2025, 7:13:29 AM

 ある休日。
 誰も彼女を知らない場所で、彼女は一人歩く。
 あてなどない。ただ、どこかへ行ってしまいたくて。自分の存在を消してしまいたくて。
 現実を考えてしまえば、それはシンプルでありながら難しい。
 周囲の悲しみが想像できてしまうから。こんな無価値な自分でも、悲しむ人が少なからずいるから。
 だから、擬似的に消えてみる。遠くへ一人消えてみる。

 知らない土地。静かな街。道端で人々が会話している。
 そんな情景は、彼女にとって背景というよりも、いっそ別世界のようで。だから、そのまま通り過ぎた。
 当てもなくふらふらと、ただただ歩いた。
 木々が風に揺られて騒いだ。緑の隙間から光が顔を出した。彼女は目を細める。
 彼女は歩き続ける。

 いくつかのそんな風景を通り過ぎて、彼女は海へと辿り着いた。
 海は太陽に照らされきらきらと輝いて、彼女を迎えた。
 瞼を閉じて、波の音に耳を傾ける。
 どこか広く狭い場所にいるような、暗くて明るい場所にいるような。やっぱり、どこか別世界にいるような。
 日常から抜け出して、辿り着いたどこか別の日常へ、彼女はやって来たのだと思った。

 再び瞼を開いて、浜辺を歩いた。
 しばらくそうしてから、浜辺を出て、海沿いの道を歩く。
 まっすぐ歩いていくと、その先に切り立った崖を見つけた。
 その場所を目指して、彼女は歩いた。そして、そこへ到着すると、崖から足を投げ出して腰を下ろした。
 風を受けながら、だだっ広い海を眺めた。
 そこには青だけが広がっていて、まるでこの世界にいるのは自分一人だけのようだった。
 みんなが世界から消えたのか、自分が世界から消えたのか、そんなのはどちらでもよかった。ここにいるのは彼女一人だけだった。

 日が暮れるまでそうしていて、そして、また立ち上がった。
 また、いつもの世界へと帰る。
 そう簡単に世界は逃がしてくれやしない。振り向けば、そこで待っているのだ。
 消えるのは容易いことではない。彼女は今を生きている。


『今を生きる』

7/20/2025, 7:16:01 AM

 もっと高く。もっと遠くまで。
 飛べ!
 飛ばないと。飛ばないといけない。
 飛ばないと、間に合わない。
 急げ。急いで駆け上がれ。高く飛べ。速く。届くように。
 必死に飛んでいく。

「遅れましたぁー!!!!!!!!」
 ダッシュで、やっと約束の場所に辿り着いた。
 二時間遅れ。
 そこには、当然般若の顔をした友人が待っていた。


『飛べ』

7/18/2025, 10:40:59 PM

「この味がいいね」と平賀源内が言ったから七月十九日は土用の丑の日(ただし年によるし今年は二回ある)。


『special day』

7/18/2025, 6:33:41 AM

 そよそよと風が吹いて、木々が優しく揺れる。
 それに合わせ、木の影と、木の下にいた長いスカートを履いたお姉さんの影も揺らめいている。
 風情を感じる。爽やかな、良い景色だ。
 風が突然強くなった。
 木々はざわざわと激しい音を立て、大きく揺れた。お姉さんのスカートも大きく揺れた。
 輝く白が見えた。
 風と共に、風情とか感じてた気持ちはどこかへ飛んでいった。
 いや違うんです。事故です。これは事故です。
 でも……良い景色ですね、本当に。


『揺れる木陰』

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