もっと高く。もっと遠くまで。
飛べ!
飛ばないと。飛ばないといけない。
飛ばないと、間に合わない。
急げ。急いで駆け上がれ。高く飛べ。速く。届くように。
必死に飛んでいく。
「遅れましたぁー!!!!!!!!」
ダッシュで、やっと約束の場所に辿り着いた。
二時間遅れ。
そこには、当然般若の顔をした友人が待っていた。
『飛べ』
「この味がいいね」と平賀源内が言ったから七月十九日は土用の丑の日(ただし年によるし今年は二回ある)。
『special day』
そよそよと風が吹いて、木々が優しく揺れる。
それに合わせ、木の影と、木の下にいた長いスカートを履いたお姉さんの影も揺らめいている。
風情を感じる。爽やかな、良い景色だ。
風が突然強くなった。
木々はざわざわと激しい音を立て、大きく揺れた。お姉さんのスカートも大きく揺れた。
輝く白が見えた。
風と共に、風情とか感じてた気持ちはどこかへ飛んでいった。
いや違うんです。事故です。これは事故です。
でも……良い景色ですね、本当に。
『揺れる木陰』
薄ぼんやりとした、白んだ視界の中、誰かが手招きをしている。
あー行かなきゃと思って、そちらへと歩き出す。
「やめときー」
誰かの声が響いた。手招きが止まった。
途端に、視界が黒くなる。
誰かの舌打ちが聞こえて、はっと目が覚めた。
やばい。死にかけてた。
エアコンが壊れた部屋の中、暑さに気を失っていた。
やっぱり扇風機と風鈴なんかじゃ、この暑さは誤魔化せない。
慌てて冷蔵庫にあったスポーツドリンクを飲み、少し意識がはっきりしたところで、ふらつきながらも近くにある街の図書館まで逃げ出した。
駄目だ。熱中症怖い。危険。命の危機。
急いでエアコン修理の電話を掛ける。
こうして、なんとか死を免れた。次からは気を付けようと心に誓った。
『真昼の夢』
昔からいつも一緒だったね。あなたとわたし。二人でいれば怖くなかった。
趣味も合ったし、いろいろな空想をして遊んだ。あなたがパパ、私がママで、おままごともしたね。
だんだんと時が経つにつれ、あなたはたくさんの別の人と一緒にいるようになった。
おかしいよね? だって、私がいるのに。
それは誰? 二人だけがいれば問題ないでしょ? なぜ他の人と一緒にいるの?
でも、しょうがないか。この世界がそうできているなら。
大丈夫。あなたを連れ去ろうとするなら、私が正しい世界を作ってあげる。
そう。最初からそうしていれば良かったんだ。
ここは二人だけの世界。
あなたの為に作った世界。もう他の誰にも邪魔させない。
『二人だけの。』