恋人が亡くなった。
信じられなかった。何かの冗談だと思いたかった。
彼はバンドをやっていて、バンドのメンバーが悲しむ私に1枚のCDを渡してきた。どうやら未発表曲のデモらしい。
私の為に作った曲だと言っていた、と。
それを持ち帰り、プレイヤーにセットした。
流れてくるメロディは、普段彼が作っている曲よりも、もっとずっと優しいものだった。
『♪君は僕の為に 僕は君の為にここにいる
君の為に贈りたい
君だけのメロディ 僕だけのメロディ
僕だけの……』
突然音楽が止まった。
こんな中途半端に終わる曲なのだろうか?
すると突然、プレイヤーから先程のフレーズが途切れ途切れに流れ始めた。
『僕は』『ここにいる』『君は』
それは彼からのメッセージのように感じた。いや、それ以外有り得ない。
彼はきっとここにいる。
そう思うと、心が温かくなった。
――次の瞬間。狂ったように、同じフレーズだけが繰り返し流れ始めた。
『僕だけの僕だけの僕だけの僕だけの僕だけの僕だけの僕だけの僕だけの僕だけの僕だけの僕だけの僕だけの』
あぁ、あなたは私のことを今でもこんなにも想っていてくれるんだ。
涙が溢れて止まらなかった。
『君だけのメロディ』
「好きだ」
人を待っていた。
そしたら、目の前で青春が繰り広げられた。
高校生くらいの男の子が、女の子に告白している。
はー……楽しそうだなぁ。青春だなぁ。
その様子を少し楽しんで見ていた。
しかし、少女は何も応えずにすたすたと歩いていってしまう。
え、返事してあげないの?
二人とも沈黙したまま進んでいく。
続きが気になってしまって、思わず自分も少し離れたところからついていく。
「あー……」
少年が口を開いた。
しかし「えっと……あの……」と口籠るばかりで、なかなか次の言葉が出こない。
そこに、とうとう少女の方も口を開いた。
「月が綺麗ですね」
おぉ! これは……!
「あの……っ!」
少年が呼び止める
しかし、少女は恥ずかしいのか、すぐさま家の中へと入ってしまった。
でも、良かったな少年。これはOKってことだろう。
――と思ったのに、少年は肩を震わせ泣きそうな様子で空を見上げている。
まさか、わかっていない?
夏目漱石の有名なエピソードだぞー少年! 大体今日はくもりだぞ少年! 月なんて出てないぞ少年! 気付け少年。泣くな少年。
見ていられなくなって、声を掛けてしまおうかとしたタイミングで電話が掛かってきた。
やばい。待ち合わせ相手からだ。
その場所から急いで離れ、電話を取る。
『どこにいるの!?』
「ご、ごめん。ちょっと」
知らない男女をストーカーしてました。
なんて言えるはずもなく。平謝りする。
……でも、青春って感じで、良かったな。久しぶりにあの頃を思い出した。
「ねぇ」
『何?』
「月が綺麗ですね」
電話の向こうの君に言ってみる。
君が笑った。
『懐かしい。告白の時も、そんな感じだったね』
君に伝えたい。――I love you.
『I love』
こういうお題になった瞬間に晴れるのどういうこと?
でも書くだけ書いてみよう。
えー……。
朝から雨が降って――
……降ってないんだよなぁ。
気持ちが乗らない。
雨音にも包まれていない。
青空からは強い日射し。日射しが熱くて暑い。
暑過ぎて、少しだけ、雨が恋しくなった。
『雨音に包まれて』
茨に囲まれた城がありました。
そこにいる人々はすべて、呪いによって眠りについていました。
そのお城の一番上等な部屋に、それはそれは美しいお姫様が眠っておりました。
この城の噂を聞きつけ、お姫様の姿を一目見てみたいと、隣国の王子様がやって来ました。
「なんて美しい人なんだ」
王子様はお姫様を見て、あまりの美しさにキスをしました。
すると、なんとお姫様が目を覚ましたではありませんか。
そして状況を理解すると、お姫様は叫びました。
「……変態! セクハラ!」
「えぇ!? ここは『あなたの愛が目を覚ましてくれたのね』って喜ぶところじゃないのかい!?」
「人工呼吸なら人助けだけど、美しいって理由だけで欲望のままにした一方的なキスは犯罪です。ちゃんと同意求めないと駄目です」
「えぇぇぇ!?」
いやたしかに人助けしようとしてキスしたわけじゃないけど! 欲望のままにしたかもしれないけど! でもほら少女漫画でもあるじゃん、寝てるところに思わずキスしちゃうやつ! 大体呪いで寝てるところをどうやって同意求めろと! むしろこういうシチュエーションのキスって、人工呼吸と同じで、人助けじゃない?
お姫様の叫び声を聞きつけ、丁度目を覚ました城の人達が部屋に駆けつけました。
そうして、王子様は捕まり、隣国との関係は拗れに拗れたそうな。
めでたくなしめでたくなし。
『美しい』
どうして。どうして私がこの世界のヒロインのはずなのに。どうして上手くいかないの。どうして誰も私の方を見ないの。
この世界は乙女ゲームの世界。
そんな世界にヒロインとして転生した私。
だから、この世界は私の為にあるようなものなのに。
どうして誰にも愛されないの? 私はヒロインよ?
あぁ、でも、そうか。悪役令嬢も転生者で、悪役令嬢が愛される物語もよくあるから。私は所詮当て馬ってこと? 許せない。
私の為の世界のはずだったのに、あの人のせいで何もかも上手くいかない。
じゃあ、どうにかしてあの人を陥れないと。
そう思い、その為の罠を幾日もかけて、綿密に計画を立ててきた。
それなのに、結局それも阻止されて。どこまでいってもこの世界は悪役令嬢の味方だった。
私の為じゃない。あの人の為の世界だった。
『どうしてこの世界は』