川柳えむ

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 恋人が亡くなった。
 信じられなかった。何かの冗談だと思いたかった。
 彼はバンドをやっていて、バンドのメンバーが悲しむ私に1枚のCDを渡してきた。どうやら未発表曲のデモらしい。
 私の為に作った曲だと言っていた、と。
 それを持ち帰り、プレイヤーにセットした。
 流れてくるメロディは、普段彼が作っている曲よりも、もっとずっと優しいものだった。

『♪君は僕の為に 僕は君の為にここにいる
  君の為に贈りたい
  君だけのメロディ 僕だけのメロディ
  僕だけの……』

 突然音楽が止まった。
 こんな中途半端に終わる曲なのだろうか?
 すると突然、プレイヤーから先程のフレーズが途切れ途切れに流れ始めた。

『僕は』『ここにいる』『君は』

 それは彼からのメッセージのように感じた。いや、それ以外有り得ない。
 彼はきっとここにいる。
 そう思うと、心が温かくなった。
 ――次の瞬間。狂ったように、同じフレーズだけが繰り返し流れ始めた。

『僕だけの僕だけの僕だけの僕だけの僕だけの僕だけの僕だけの僕だけの僕だけの僕だけの僕だけの僕だけの』

 あぁ、あなたは私のことを今でもこんなにも想っていてくれるんだ。
 涙が溢れて止まらなかった。


『君だけのメロディ』

6/14/2025, 8:38:23 AM