川柳えむ

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「好きだ」

 人を待っていた。
 そしたら、目の前で青春が繰り広げられた。
 高校生くらいの男の子が、女の子に告白している。
 はー……楽しそうだなぁ。青春だなぁ。
 その様子を少し楽しんで見ていた。
 しかし、少女は何も応えずにすたすたと歩いていってしまう。
 え、返事してあげないの?
 二人とも沈黙したまま進んでいく。
 続きが気になってしまって、思わず自分も少し離れたところからついていく。

「あー……」

 少年が口を開いた。
 しかし「えっと……あの……」と口籠るばかりで、なかなか次の言葉が出こない。
 そこに、とうとう少女の方も口を開いた。

「月が綺麗ですね」

 おぉ! これは……!

「あの……っ!」

 少年が呼び止める
 しかし、少女は恥ずかしいのか、すぐさま家の中へと入ってしまった。
 でも、良かったな少年。これはOKってことだろう。

 ――と思ったのに、少年は肩を震わせ泣きそうな様子で空を見上げている。
 まさか、わかっていない?
 夏目漱石の有名なエピソードだぞー少年! 大体今日はくもりだぞ少年! 月なんて出てないぞ少年! 気付け少年。泣くな少年。

 見ていられなくなって、声を掛けてしまおうかとしたタイミングで電話が掛かってきた。
 やばい。待ち合わせ相手からだ。
 その場所から急いで離れ、電話を取る。

『どこにいるの!?』
「ご、ごめん。ちょっと」

 知らない男女をストーカーしてました。
 なんて言えるはずもなく。平謝りする。
 ……でも、青春って感じで、良かったな。久しぶりにあの頃を思い出した。

「ねぇ」
『何?』
「月が綺麗ですね」

 電話の向こうの君に言ってみる。
 君が笑った。

『懐かしい。告白の時も、そんな感じだったね』

 君に伝えたい。――I love you.


『I love』

6/12/2025, 11:33:05 PM