「これで最後です!」
「えー!?」
「アンコール!」
「じゃああともう一曲だけ……」
「では、これで最後です!」
「えー!?」
「アンコール!」
「そんなにぃ? じゃあ今度こそ次で最後ね?」
「今度こそ、これで最後です!」
「えー!?」
「アンコール!」
「じゃあ……」
後ろからマネージャーが現れた。
いい加減にしろと怒られた。
『これで最後』
始まりがそもそも少しおかしかった。
記憶はないが、朝一緒のベッドにいた。あるだろ? それくらい。
とりあえず好みだったので付き合った。
そこで一つ問題ができた。
……彼女の名前がわからない。
完全に訊くタイミングを逃してしまった。
向こうはこちらの名前をちゃんと認識しているし、今更訊けない。困った。
だから、彼女宛の郵便物をこっそり見た。
――『鈴木 瑠璃』。
すずき るり!
これが彼女の名前。ようやく知ることができた。
そして、とうとう彼女を名前で呼んだ。
……怒られた。
「『るり』って誰?」と――。
どうやら『瑠璃』と書いて『らぴす』と読むらしい。
わ、わかるかぁー!
浮気を疑われるし(いや読み間違いって気付いてほしい)、そもそも名前を覚えていなかったのかと怒られるし(それはそう)、最悪だ。
もっと読みやすい名前をお願いします……。
『君の名前を呼んだ日』
空が灰色に染まっている。そこから、涙がぽたぽたと零れている。温かく、柔らかな風と共に地面へと落ちていく。
その音がやさしい音楽のように聴こえる。
昔はこんな日なんて嫌いだった。暗くて、心まで沈んでいきそうで。
あの日は、適当に音楽を流していた。なんでも良かった。何か心が晴れるなら。
その中に、あの曲があった。
明るい曲ではなかった。まさしく今の状況を歌っているような、そんな歌。でも、優しいメロディーだった。
その歌を雨音と共に聴いていたら、なんだか雨の日もまとめて好きになってしまったんだ。
それから、こんな雨の日には、あの音楽が頭の中に、雨音と共に聴こえてくるようになった。心地良い気分だ。
『やさしい雨音』
魔王を倒す旅を続けるパーティーがあった。
その中に、歌が下手な吟遊詩人がいた。その歌声は敵だけでなく仲間の耳も壊すほど。
しかし、本人はその事実に気付いていないのだった――。
「思ったんだけど、私って、歌だけじゃなく、魔法が使える吟遊詩人じゃないですか」
「うん」
「なので、魔法と歌を融合させたら、どちらの効果も発揮できるのではないかと!」
「殺傷能力が上がるな」
「え?」
そんなわけで、吟遊詩人は練習を始めた。
仲間はその様子を眺めている。
「……なんか思ったよりダメージ来ないな。一応耳栓用意しといたけど、まさか必要なくなるとは」
「歌聴いても平気ですね。というか、歌が聴けるレベルになってる」
「とうとう音痴を克服したのか? マジで!?」
吟遊詩人が練習を止め、こちらへとやって来た。
「いやー魔法に集中しちゃって音程取れなくてだめだわー」
「音……程…………っ!?」
『歌』
そう、そっと優しく、包み込んで。
全てを受け入れようとしなくていい。
少しでいい。溢れ出ないように、ぎゅっと。
そうしたら、燃えるくらいに熱して。
はい! 最高の餃子の出来上がり!
『そっと包み込んで』