川柳えむ

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6/11/2024, 10:34:41 PM

 元々は小さな町だった。私はその小さな町で町長をしていた。
 住民は「いつもありがとう」と、作った米や野菜を差し入れてくれたりしていた。とてもいい町だった。
 でも、人が少なかった。若者はどんどん都会へ出てしまう。このままではこの町がなくなってしまうかもしれない……。
 私は手始めに大型商業施設を建設した。有名なお店や映画館も入っている。
 若者はそこに集まって遊ぶようになり、大人達もみんなそこで買い物をするようになった。
 次に新しく観光地を作った。多くの人が楽しめるような、次世代型の施設。観光客も増えてきた。
 そんな形で、いろいろな物を作り、新しくしていくと、少しずつ外からも人が入るようになった。これで町はなくならないだろう。
 ただ、昔からあった商店街は、新しいものに客を奪われ、廃れていった。
 気付けば、小さな町は大きな街になっていた。私の懐も潤っていた。
 でも、もう誰も自分のところで作った米や野菜を差し入れたりはしない。
 私が好きだった小さな町は、もうなくなっていたのだ。


『街』

6/10/2024, 10:41:24 PM

 私に不思議な力があれば。たとえば、癒しの魔法や、時を戻せる力があれば。
 そしたら、どうにかしてあなたを助けに行くのに。


『やりたいこと』

6/9/2024, 8:56:42 PM

 朝日の温もりを感じて、布団の中で大きく伸びをした。
 温かい光が降り注ぐ。良い天気だなぁ……。もう一眠りしたい……。

 …………明るいな?

 慌てて飛び起きた。

 今何時!? うわああぁぁぁぁ!! 家出る時間過ぎてる!? 道理で明るいと思ったんだよ!!

 急いで支度を済ませて家を飛び出る。
 だんだんと高い位置に変わっていく朝日が、焦る私を照り付けて暑かった。


『朝日の温もり』

6/9/2024, 6:52:46 AM

 ここが人生の分岐点だとして、どちらの道に行けば最善なのか、今は考えられないでいる。
 いくつにも分かれている道の真ん中で、ただ動けずにじっと蹲っている。
 ここにいたって、どうしようもないのに。もうどうしようもないって、分かっているのに。


『岐路』

6/7/2024, 10:36:44 PM

 世界の終わりに君とディナーがしたいとカッコつけたこと言ったら、じゃあ行こう! となり、近くにこんな素敵なお店があることを知った。
 言ってみて良かった。そんな余裕ないなんて言われたらどうしようかと思った。

 テラス席で美味しい料理を頬張る。幸せな気分だ。
 テーブルの真ん中に置かれた淡いランプの光に照らされた君は、一段と美しく見えた。
「良いお店ですね」
 次の料理を運んできた店主らしき男にそう告げると、彼は嬉しそうに笑った。
「このお店は私の夢が詰まっていますから。最後まで見ていたい私の夢なんです」
 なるほど。彼にとって何よりも大事なものがこのお店なんだ。
 だから、こんな状況で一人でもお店を続けている。
 そう、本当に世界が終わりそうなこの状況でも。

 ある日突然、地球を征服しに宇宙人が攻めてきた。
 徐々に侵略され滅んでいく地球。もうすぐここも終わりだろう。

 空がぱっと明るく輝いて、思わず顔を上げる。
 空からは無数の光の帯が降り注いでいる。その光景のあまりの美しさに息を呑んだ。
「綺麗だね」
 君は言った。
「そうだね」
 僕は静かに頷いた。


『世界の終わりに君と』

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