川柳えむ

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 元々は小さな町だった。私はその小さな町で町長をしていた。
 住民は「いつもありがとう」と、作った米や野菜を差し入れてくれたりしていた。とてもいい町だった。
 でも、人が少なかった。若者はどんどん都会へ出てしまう。このままではこの町がなくなってしまうかもしれない……。
 私は手始めに大型商業施設を建設した。有名なお店や映画館も入っている。
 若者はそこに集まって遊ぶようになり、大人達もみんなそこで買い物をするようになった。
 次に新しく観光地を作った。多くの人が楽しめるような、次世代型の施設。観光客も増えてきた。
 そんな形で、いろいろな物を作り、新しくしていくと、少しずつ外からも人が入るようになった。これで町はなくならないだろう。
 ただ、昔からあった商店街は、新しいものに客を奪われ、廃れていった。
 気付けば、小さな町は大きな街になっていた。私の懐も潤っていた。
 でも、もう誰も自分のところで作った米や野菜を差し入れたりはしない。
 私が好きだった小さな町は、もうなくなっていたのだ。


『街』

6/11/2024, 10:34:41 PM