もしも明日世界が終わるなら、最期に君に逢いに行くよ。
そんな詩的なことを考えていたら、どうやら本当に世界がまずいことになっているらしいとニュースが入ってきた。
地球を侵略しに、宇宙人が攻めてきたのだ。
これは夢か幻か?
明日世界が終わるなら、なんて悠長なことを言っている場合ではなくなった。
一先ず災害時の避難所である近所の小学校へ向かう為、慌てて外に飛び出る。
空からは宇宙船が放つ光線が降り注いでいる。
道路は逃げようとする車で渋滞。右往左往する人々。あちこちから叫び声が上がっている。
その脇をダッシュですり抜ける。
「おい! 邪魔だ!」
のろのろ歩いている老人を突き飛ばす。親切にとか、そんな余裕はない。
逃げなきゃ。隠れなきゃ。死んでしまう。
老耄や泣き叫ぶだけのガキ、慌てふためくだけの馬鹿。道を塞ぐ邪魔な奴らなんて、生き残ったってしょうがないだろ。
そうしてなんとか小学校へ逃げ込む。職員へ詰め寄る馬鹿どもが騒いでいる。
体育館へ案内されたが、それよりも地下だ。地上じゃそのうちあの光線でやられてしまうだろう。
俺は静止を振りきって地下の特別教室へとやって来た。
これなら多少安心か。
しかし、同じようなことを考えた人達で溢れ返っていた。まるで満員電車のように、ぎゅうぎゅうと人がひしめき合っている。
「どけよ!」
人の間に入り、邪魔な奴を蹴飛ばす。すると、睨み付けられ、突き飛ばされました。
混乱した奴ら騒いでいる。
こんな馬鹿どもよりも、絶対に学歴も良い将来有望な俺の方が生き残る価値があるというのに。
「っざけんなよ!」
近くにいた馬鹿そうな女を殴ると、隣りにいたその彼氏らしき男に殴られた。
クソが。こんな所にいられるか。
小学校を出て、別の場所へ向かう。
他にどこがある?
そう考えてピンと来た。近くのスーパーだ。たしか地下倉庫があると聞いたことがある。
スーパーなら食料品や日用品が山程ある。生き残るのにここほど適した場所もないだろう。
やはり俺は天才だ。
再度ダッシュでスーパーへ向かう。
「どけ!」
また道を塞いでいるカスを突き飛ばした。
そこへ、一台のバイクが入ってきた。
突き飛ばされた奴を避けようと慌てたバイクが咄嗟にハンドルを切り、それはそのままこちらへと突っ込んできて、俺を撥ねた。
何でだよ。何で俺がこんなところで死ななきゃいけないんだ。俺よりも死ぬべき奴がたくさんいるだろ?
クソがクソがクソクソクソクソクソクソクソクソ!
もしも明日世界が終わるなら、最期に君に逢いに行くとか思ったが、そんな余裕はなかったな。当たり前だろ。
明日世界が終わるとしても、俺は生き残るべき人間なのに。
俺の世界はこんなにも呆気なく終わってしまったのだった。
『明日世界が終わるなら』
初めてこんな景色を見た。
美しいと思った。
君と出逢わなかったら、こんな景色を見ることも、こんな想いを抱くこともなかった。
君と出逢ったのは偶然だった。本当に、道端で偶然出逢った。その時は、こんな風になるとは思っていなかった。
「ありがとう」
君にそう告げると、君は嬉しそうに笑った。
ありがとう、出逢ってくれて。
ありがとう、僕を連れ出してくれて。
君と出逢って、僕は助かった。君に助け出されたんだ。
宇宙船から見下ろした先には、他の星から侵略されて滅び行く地球の姿があった。
それは、悲しくなるくらい美しい姿だった。
『君と出逢って』
最初はいろいろな音に耳を澄ませていただけだった。
風の音や木々のざわめく音、車の音や人々の活気のある声を聴いてきた。
ただ純粋な気持ちで聴いていただけだった。
いつからだったか、音に怯えるようになっていた。
聴きたくないものまで聴こえてくる気がして。
風の音に、空の悲しみが混ざっている気がして。
木々のざわめきに、植物の痛みの怨嗟が混ざっている気がして。
車の音に、大地の怒りが混ざっている気がして。
人々の声に、乱れた感情や恨みや苦しみが混ざっている気がして。
全ての音が、訴えかける声に聴こえて――。
耳を澄ませば聴こえてくる。
音が、声が、怖い。
もう何も聴きたくない。
そう思い、耳を塞いだ。
他人の顔を見るのさえも怖くなった。
その日もベッドの上にうつ伏せに寝転がって、枕に顔を埋めていた。
その時。
~♪~♪~
風に乗って、耳に届いてきた。
リコーダーの音だった。
決して上手いとは言えなかったものの、澄んだ綺麗な音だった。
思わずベランダに飛び出し、身を乗り出した。
見下ろした先では、一人の少女が必死にリコーダーを練習していた。
流れてくる音。溢れる温かい思いが、リコーダーの音色には篭っていた。
ああ、世界には、こんなに綺麗な音も存在しているんだ。
当たり前のことだったけれど、そう思った。
当たり前のはずなのに、耳を塞いたから、今まで気付けなかった優しい音。
それから、音への恐怖はなくなった。
世界にはたくさんの苦しみや悲しみが存在していて、聴こえてくる声は醜かったりもするけれど、温かい音も確かに存在しているから。
『耳を澄ますと』
「二人だけの秘密だよ」
山にあった古びた小屋を秘密基地にして、僕らは二人顔を見合わせた。
周辺に大きな穴を掘ったり埋めたり。大きな仕事をして、ここは本格的に僕ら二人だけの秘密基地になった。
なんだかドキドキする。
秘密基地。どうか誰にも見つかりませんよーに。
『二人だけの秘密』
優しくしないで。
戻れなくなったらどうしてくれるの。全てに責任取れるの?
優しくされて、それを許して、あなたなしでは生きられなくなって、もしその後捨てられてしまったら。
きっと私はもう生きていけない。
「大丈夫。おいで。幸せにするから」
あなたがしゃがみ込んで手を差し伸べる。
「にゃーん」
あなたの腕の中に飛び込む。
きっと、もう戻れないだろうと思いながら。
優しくしないで。
優しくするなら、絶対に幸せにしてね。
『優しくしないで』