川柳えむ

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5/3/2024, 6:21:50 AM

 優しくしないで。
 戻れなくなったらどうしてくれるの。全てに責任取れるの?
 優しくされて、それを許して、あなたなしでは生きられなくなって、もしその後捨てられてしまったら。
 きっと私はもう生きていけない。

「大丈夫。おいで。幸せにするから」
 あなたがしゃがみ込んで手を差し伸べる。
「にゃーん」
 あなたの腕の中に飛び込む。
 きっと、もう戻れないだろうと思いながら。

 優しくしないで。
 優しくするなら、絶対に幸せにしてね。


『優しくしないで』

5/2/2024, 5:39:49 AM

 疲れていた。
 家に持ち帰った仕事をする為に、パソコンに向かい合っていた。
 どれだけそうしていたのかわからない。
 五月三日。世間はゴールデンウィーク。
 休みだというのに、なぜ私はこんなことをしているのだろうと、我に返る。
「何か甘いものが食べたいなぁ〜……」
 部屋を出て、ダイニングキッチンへとやって来た。
 何かおやつあったかなぁと、冷蔵庫を開けてみるが、目ぼしい物は見当たらない。
 ふと顔を上げると、戸棚のガラス扉の向こうにドロップ缶が見えた。
 そうだ。前回帰省した時に、祖母から貰ったんだった。
 缶を開けると、中から色とりどりのドロップが転がり出てきた。
 それを一つ口に頬張る。
「……甘〜い」
 カラフルで、宝石のようなドロップ。甘くて、綺麗で。
 子供の頃はこれが好きで、よく祖母に買ってもらっていた。ドロップ缶を渡してくれる祖母のいつもの笑顔を思い出す。
 次の休みには帰省しようと、強く心に決めた。


『カラフル』

5/1/2024, 12:59:46 AM

 この世に楽園? あるわけない。
 楽園なんてどこにも存在しない。
 世界には苦しみしかない。

 嘘だ。
 あったわ。楽園はここにあった。

 猫カフェでたくさんの猫に埋もれながら、とても締まりの無い表情で、この世の真理に気付いてしまった。
 楽園は、ある。


『楽園』

4/29/2024, 10:35:23 PM

 風が吹いている。
 あまりの心地良さに思わず風に歌声を乗せた。この広い草原で、思い切り歌う。世界がまるで自分のものになったような気分だった。

「ママー。なんで風が吹けば桶屋が儲かるの?」
「それはね。風に乗ったパパみたいな歌声がみんなの耳を駄目にして、みんな三味線を弾くことも聴くこともなくなって、三味線に使われる猫は余ってしまって、そのたくさんの猫が桶で丸まって眠るから、桶屋が儲かるのよ」
「そうなんだ!」
「ママ、嘘教えないで」


『風に乗って』

4/28/2024, 10:23:56 PM

 君がこちらを振り返っただけだった。
 刹那、恋に落ちた。
 振り返ったその瞳が美しかった。光を纏っているような煌めきを持っていた。それを見た瞬間、恋ってこんなに簡単に落ちるものなんだと知った。
 時間なんて要らない。
 それは、極めて瞬間的に起きた出来事だった。


『刹那』

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