一緒にいたのは愛情というより同情だった。
辛い過去を曝け出してくれた君を、守ってあげたいと思った。
だから、君のわがままを何でも聞いてあげた。すぐ泣き出してしまうのも仕方ないと思ったし、怒るのはきっと俺に心を許してくれているから。
……ちょっと疲れた。
幼馴染みで腐れ縁の女友達に弱音を吐いた。怒られた。それは彼女の為にならないと。
同情はいいが、わがままを全て聞いてあげるのは間違っている。
彼女と少し話すことにした。
家に帰ると、彼女は包丁を持って立っていた。「どこに行ってたの?」
――今、一番同情してほしいのは俺の方かも。
『同情』
生き物を飼わないようにしている。
一人暮らしの寂しさに、ちょっとした鉢植えを買った。
スーパーで売っていたよく知らない植物だが、それでいいと思った。知らない方が成長が楽しみだと思った。
毎日毎日仕事に忙殺されていた。休みも少なく、たまの休みは家で眠るだけ。そんな毎日だった。
最初はちゃんと水もあげていた。大きくなるのが楽しみだった。
それが、日々に追われ、毎日の水遣りが数日に一回となり、いつしか存在を忘れていった。
気付いた頃には枯れていた。
枯れ落ちた葉をつまむ。
呆気ないものだ。しっかりと世話をしないと、こうも簡単に枯れてしまうのだ。水と、栄養と、愛情を込めて育てないといけないのだ。
日々に忙殺される私のように。
何もなければ簡単に死んでしまう。きっとこの植物は自分と同じだった。
寂しさで傍に置かれ、忙しさに忘れ去られ、何もなくなって死んだ心。
生き物を飼わないようにしている。
きっと私には育てることができない。
もう何も失わず、もう失われたくなかったから。
『枯葉』
「『今日にさよなら』……ねぇ……」
一日一つ何かしらのお題が出て、それに沿った文章を投稿するアプリをやっているわけだが。今日のお題が私的にはなかなか難しく『今日にさよなら』というものだった。
こういう時はまずどうするか決まっている。メニューからみんなの作品を見てみるのだ。みんなはどんな内容を投稿しているのか。勿論パクるわけではない。参考にするのだ。実際刺激されて良い物が書けたりするのだ。
みんなの作品を開いてみる。
――なるほど、こんな感じか。へぇ、こんな視点もあるんだなぁ。あ、これ面白い。
手が止まる。これ好きだ。
『いいね』の代わりの『もっと読みたい』ボタンをタップしようとする。その前にお気に入りに登録する必要があるのだが、案の定、既にお気に入りに入っていた。
しかし、悔しい。面白い。このオチが好きだ。よくあることだ――みんなの作品を読んで悔しくなるのは。実際に、そんなことを以前、少し前に黒いアイコンに変わってしまったSNSでも呟いたことがある。
はぁ……悔しいな。こんなお題、早く変わってしまえ。でも絶対何かしらは書くと決めている。だから。
こんな気持ちを込めて投稿する。
これで、今日のお題よ、さようなら!
『今日にさよなら』
絶対に誰にも見せたくない。渡したくない。僕だけのお気に入りのものがあった。
だから宝箱にしまっておくことにした。
宝箱の中にしまって、僕だけが見られるように。僕だけが触れるように。
お気に入りのそれは、とても美しかった。僕だけのものだと思ったら、余計に愛おしく、大切だと思えた。
『――○○日午後、××県△△市にあるアパートの一室で、女性の遺体が発見されました。警察は、部屋の契約者である男を死体遺棄容疑で逮捕しました。男は「お気に入りだからしまっておきたかった」などと供述し、容疑を認めています』
『お気に入り』
他の誰よりも私があなたを好き。他の誰よりもあなたのことが好きだよ。
あなたも私のこと好きだよね?
あなたのステージは全部観に行ったし、あなたもこっちに向かって手を振ってくれた。最初に目が合った時は勘違いかと思ったけど、笑いかけてくれたよね? いろんなプレゼントも贈った。使ってくれてる? 飾ってくれてるかな。
お互いに想い合ってあるのに、二人きりで逢えないなんて。
そろそろ一歩前に進みたいよね。あなたもそうでしょ?
あなたの家に行きたいのに、嫉妬かな? いつもスタッフさんに邪魔されてたから。仕方ないからあなたの住所を買ったよ。これで二人で逢えるね。
他の誰よりも私があなたを好き。他の誰よりもあなたのことが好きだよ。
私達、相思相愛ね。
『誰よりも』