川柳えむ

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2/20/2024, 10:34:58 PM

 一緒にいたのは愛情というより同情だった。
 辛い過去を曝け出してくれた君を、守ってあげたいと思った。
 だから、君のわがままを何でも聞いてあげた。すぐ泣き出してしまうのも仕方ないと思ったし、怒るのはきっと俺に心を許してくれているから。

 ……ちょっと疲れた。
 幼馴染みで腐れ縁の女友達に弱音を吐いた。怒られた。それは彼女の為にならないと。
 同情はいいが、わがままを全て聞いてあげるのは間違っている。

 彼女と少し話すことにした。
 家に帰ると、彼女は包丁を持って立っていた。「どこに行ってたの?」
 ――今、一番同情してほしいのは俺の方かも。


『同情』

2/19/2024, 10:46:03 PM

 生き物を飼わないようにしている。

 一人暮らしの寂しさに、ちょっとした鉢植えを買った。
 スーパーで売っていたよく知らない植物だが、それでいいと思った。知らない方が成長が楽しみだと思った。

 毎日毎日仕事に忙殺されていた。休みも少なく、たまの休みは家で眠るだけ。そんな毎日だった。
 最初はちゃんと水もあげていた。大きくなるのが楽しみだった。
 それが、日々に追われ、毎日の水遣りが数日に一回となり、いつしか存在を忘れていった。

 気付いた頃には枯れていた。

 枯れ落ちた葉をつまむ。
 呆気ないものだ。しっかりと世話をしないと、こうも簡単に枯れてしまうのだ。水と、栄養と、愛情を込めて育てないといけないのだ。

 日々に忙殺される私のように。
 何もなければ簡単に死んでしまう。きっとこの植物は自分と同じだった。
 寂しさで傍に置かれ、忙しさに忘れ去られ、何もなくなって死んだ心。

 生き物を飼わないようにしている。
 きっと私には育てることができない。
 もう何も失わず、もう失われたくなかったから。


『枯葉』

2/18/2024, 10:40:35 PM

「『今日にさよなら』……ねぇ……」

 一日一つ何かしらのお題が出て、それに沿った文章を投稿するアプリをやっているわけだが。今日のお題が私的にはなかなか難しく『今日にさよなら』というものだった。
 こういう時はまずどうするか決まっている。メニューからみんなの作品を見てみるのだ。みんなはどんな内容を投稿しているのか。勿論パクるわけではない。参考にするのだ。実際刺激されて良い物が書けたりするのだ。
 みんなの作品を開いてみる。
 ――なるほど、こんな感じか。へぇ、こんな視点もあるんだなぁ。あ、これ面白い。
 手が止まる。これ好きだ。
『いいね』の代わりの『もっと読みたい』ボタンをタップしようとする。その前にお気に入りに登録する必要があるのだが、案の定、既にお気に入りに入っていた。
 しかし、悔しい。面白い。このオチが好きだ。よくあることだ――みんなの作品を読んで悔しくなるのは。実際に、そんなことを以前、少し前に黒いアイコンに変わってしまったSNSでも呟いたことがある。
 はぁ……悔しいな。こんなお題、早く変わってしまえ。でも絶対何かしらは書くと決めている。だから。
 こんな気持ちを込めて投稿する。
 これで、今日のお題よ、さようなら!


『今日にさよなら』

2/18/2024, 5:38:02 AM

 絶対に誰にも見せたくない。渡したくない。僕だけのお気に入りのものがあった。
 だから宝箱にしまっておくことにした。
 宝箱の中にしまって、僕だけが見られるように。僕だけが触れるように。
 お気に入りのそれは、とても美しかった。僕だけのものだと思ったら、余計に愛おしく、大切だと思えた。

『――○○日午後、××県△△市にあるアパートの一室で、女性の遺体が発見されました。警察は、部屋の契約者である男を死体遺棄容疑で逮捕しました。男は「お気に入りだからしまっておきたかった」などと供述し、容疑を認めています』


『お気に入り』

2/16/2024, 10:31:56 PM

 他の誰よりも私があなたを好き。他の誰よりもあなたのことが好きだよ。
 あなたも私のこと好きだよね?

 あなたのステージは全部観に行ったし、あなたもこっちに向かって手を振ってくれた。最初に目が合った時は勘違いかと思ったけど、笑いかけてくれたよね? いろんなプレゼントも贈った。使ってくれてる? 飾ってくれてるかな。
 お互いに想い合ってあるのに、二人きりで逢えないなんて。
 そろそろ一歩前に進みたいよね。あなたもそうでしょ?
 あなたの家に行きたいのに、嫉妬かな? いつもスタッフさんに邪魔されてたから。仕方ないからあなたの住所を買ったよ。これで二人で逢えるね。

 他の誰よりも私があなたを好き。他の誰よりもあなたのことが好きだよ。
 私達、相思相愛ね。


『誰よりも』

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