川柳えむ

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 生き物を飼わないようにしている。

 一人暮らしの寂しさに、ちょっとした鉢植えを買った。
 スーパーで売っていたよく知らない植物だが、それでいいと思った。知らない方が成長が楽しみだと思った。

 毎日毎日仕事に忙殺されていた。休みも少なく、たまの休みは家で眠るだけ。そんな毎日だった。
 最初はちゃんと水もあげていた。大きくなるのが楽しみだった。
 それが、日々に追われ、毎日の水遣りが数日に一回となり、いつしか存在を忘れていった。

 気付いた頃には枯れていた。

 枯れ落ちた葉をつまむ。
 呆気ないものだ。しっかりと世話をしないと、こうも簡単に枯れてしまうのだ。水と、栄養と、愛情を込めて育てないといけないのだ。

 日々に忙殺される私のように。
 何もなければ簡単に死んでしまう。きっとこの植物は自分と同じだった。
 寂しさで傍に置かれ、忙しさに忘れ去られ、何もなくなって死んだ心。

 生き物を飼わないようにしている。
 きっと私には育てることができない。
 もう何も失わず、もう失われたくなかったから。


『枯葉』

2/19/2024, 10:46:03 PM