色とりどりの花が咲き乱れている。
その光景が、あまりにも美しく、あまりにも現実離れし過ぎていて、「あ、死んだんだ」と気付くことができた。
最期は呆気なかったなぁ。でも、それなりに楽しかったから、未練はないかも。
それに、あの世がこんなに美しい場所なら、戻りたいとか思わないかも。この景色をずっと見ていたい。居心地が良い。
美しい花をじっとよく見てみる。
そして気付いた。この花一つ一つが、自分が過ごしてきた思い出でできていることに。
花びらの上に、綺麗に色付いた思い出が流れている。
これは親に褒めてもらった時。これは初めて自転車に乗れた日。弟ができた日。クリスマスにゲームを買ってもらえたこと。入学。卒業。就職。恋人ができた日。プロポーズされて嬉しかった夜。結婚。大切な子供が産まれた日。子供が成長していく様子……。
生きてきた長い時が、こんなにも色とりどりに、美しく咲いている。
「あぁ……戻りたくなっちゃったかも」
景色が涙で滲んだ。
『色とりどり』
空は青く澄み渡り、ただ冷たい風だけが吹き抜ける。
ずっと待っているのに、出逢えない……雪。
雪が見たい。早く。この悲しみを白で覆い隠してほしい。
世界を塗り潰してくれ。
何も見えないくらいに、真っ白く。
『雪』
「行こうか」
「それじゃあ出発ー!」
彼女と駅前で待ち合わせて、予定していた場所へと向かう。
今日は彼女に楽しんでもらいたくて、自分がデートの計画をした。
まずは、そこの人気のお店でモーニングを――
「休業」
何でだ。よりにもよって、今日休業なんだ。
たしかに不定休という情報は見たけど、何で、どうして。最初から連絡して聞いておけば良かった。ちゃんと予約を取れば良かったんだ。
「えーと……私別にどこのお店でも大丈夫だよ?」
そうして、彼女に引かれて別のお店に入る。
……出鼻を挫かれてしまった。
今日は自分が彼女を楽しませると決めていたのに。情けない。
「次はどこ行くの?」
そうだ。落ち込んでばかりいられない。次は――
「水族館です!」
近くの水族館までやって来た。
冬でもいろんなショーが見られるという。
「イルカショー始まるって。行こう」
「……いやぁ、冬って、寒いねぇ……」
屋外で水を使うショー。
思いのほか寒くて、震えながら館内へやって来た。
これなら、最初から寒いかもしれないって、防寒対策ちゃんとしてくるべきだった。いやそもそも、水族館じゃなくて別の施設へ行くべきだったんだ。
「行こう」
「え、ちょっと待って。まだ見てるよ」
彼女の腕を引いて、次の場所へ。
今度こそ失敗しない。
「映画を観よう」
場所を移動して、映画館へ。
「いいけど……どれ観るの?」
時間を確認しながら、丁度良さそうな映画を選択する。
チケットとポップコーンを購入し、座席へ向かった。
「疲れてるんだね」
…………彼女のデートの最中、映画を観ながら、思い切り寝てしまった……。
正直内容も微妙だったし、眠くもなるだろ、こんなの……。
彼女を楽しませたいのに、上手くいかない。空回りばかりしている。
どうしていつもこうなんだ。いつもしっかり者の彼女が手を引いてくれる。だからこそ、今度はこっちが手を引いてあげたかった。
「お疲れ様。寝ちゃったのって、今日のこと一生懸命考えてくれたからでしょ? クマが出来てるよ」
……彼女は何でもお見通しだ。
格好付けたくて、人気のスポットをいくつも調べたんだ。昨夜も考えて、緊張して、そして楽しみで、よく眠れなかった。
「別にどこでもいいのに。どこだって楽しいんだよ。君と一緒なら」
「……! 俺だって!」
俺だってそうだ。どこだって関係ない。君がいれば、どこだって天国だ。
「でしょ? そんな簡単なことに気付いてなかったの?」
笑いかけてくる君。いつもこうやって、大切なことを思い出させてくれる。
場所なんて些細なこと。君といる。それだけが大事なことなんだ。
「君と一緒なら」
君と一緒に、どこまでも行ける。
『君と一緒に』
空が青く澄んでいる。
刺すような冷たい空気が頬を撫でる。
吐き出した白い息が寒空へ上っていく。
気持ちの良い冬晴れ。
駅前で君を待つ。
少しして、改札から君が出てきた。
すぐさま私を見つけると、手を上げながらこちらに駆け寄ってくる。
「行こうか」
好きな場所へ、二人で。この空の下どこまでも。
『冬晴れ』
幸せとは何か。
書こうと思えば、悩み過ぎてわからなくなる。
お金を手に入れること? 好きな人と過ごすこと? 楽しいことをすること?
どれか一つに定めたとして、それをお話に落とし込もうとすると、なかなか良い文章が浮かんでこない。
もしかしたら、自分は本当の幸せを知らないのかもしれない。幸せなんて実は存在していないのかもしれない。
結局、幸せなんてものは意識しないと気付けない。そんなちっぽけなもの。たいしたことのない小さな出来事を、誰かよりはマシだとか、恵まれているとか、幸せだとか言い聞かせて生きている。
そんな自分がどうやってこの言葉を使って何かを書けるのか。
「おしるこできたよー」
そんな風に頭を抱えていたところ、母がおしるこを作って持ってきてくれた。お正月だ。
「やったー!」
年末についた餅を頬張る。
あー、幸せだー!
……ん? そうなのか。幸せとはおしるこだったようだ。
『幸せとは』