川柳えむ

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 色とりどりの花が咲き乱れている。
 その光景が、あまりにも美しく、あまりにも現実離れし過ぎていて、「あ、死んだんだ」と気付くことができた。
 最期は呆気なかったなぁ。でも、それなりに楽しかったから、未練はないかも。
 それに、あの世がこんなに美しい場所なら、戻りたいとか思わないかも。この景色をずっと見ていたい。居心地が良い。
 美しい花をじっとよく見てみる。
 そして気付いた。この花一つ一つが、自分が過ごしてきた思い出でできていることに。
 花びらの上に、綺麗に色付いた思い出が流れている。
 これは親に褒めてもらった時。これは初めて自転車に乗れた日。弟ができた日。クリスマスにゲームを買ってもらえたこと。入学。卒業。就職。恋人ができた日。プロポーズされて嬉しかった夜。結婚。大切な子供が産まれた日。子供が成長していく様子……。
 生きてきた長い時が、こんなにも色とりどりに、美しく咲いている。
「あぁ……戻りたくなっちゃったかも」
 景色が涙で滲んだ。


『色とりどり』

1/8/2024, 10:45:05 PM