いわゆる絶景と呼ばれる地へやって来た。
たしかにそこは壮大な景色が広がっていて、なんだか泣きたくなるような気持ちに駆られた。
広がる空は青く大きく、ただただ雄大な自然がそこに存在しているだけ。
心が洗われていく。いいなぁ。この景色に、自分も溶け込んでしまいたい。
大空を見上げる。
そして、空を眺めたまま歩き出した。広がる景色に足を踏み出した。
なんとなく、今なら空を飛べる気がしていたんだ。
大きく広がる空が、更に広く近くなった。
『大空』
「はぁ~……最高」
クリスマスイブの夜。目の前では彼女が酔い潰れている。家飲みだからと、甘いワインを調子に乗って何杯も飲むからである。
でも幸せそうな顔をして横になっている姿を見ると、このワインにして良かったなという気持ちになる。
「そのままそこで寝たら風邪引くよ」
起こそうと彼女の肩を軽く揺らす。
「うぅん……」と小さく呟くと、彼女はこちらに向かって両手を広げた。「抱っこー」
子供か! でもかわいい!
彼女を優しく抱き上げ、寝室へ入り、ベッドの上にそっと置く。
「おやすみ。寝たらサンタが来るかもしれないよ」
「この歳で?」
「そうそう。サンタは良い子にしてた人のところに来るから」
「……欲しいもの、あるよ」
彼女がまたこちらに両手を広げた。
その肩の下に両手を滑り込ませ、ぎゅっと力強く抱き締めた。
隣の部屋のテーブルの上には、寝ている間に置いておこうと思っていた、小さな箱に入ったプレゼントが用意してある。
まぁ、それはまた明日渡せばいいか。
欲しいもの、サンタが連れてきてくれるといいな。
遠くからベルの音が聞こえた気がした。
『ベルの音』
寂しさを感じてあなたの名前を呼ぶ。返事はない。
どうして返事をしてくれない? 悲しくなって何度も呼ぶ。それでも返事は返ってこない。
寂しさは更に増す。どうして独りなんだ。あなたはどこへ行ってしまったの。
ところで、あなたって誰?
そもそもここにいるのは一人だった。
あまりにも誰にも会わず、寂しさで狂ってしまったようだ。
『寂しさ』
冬は一緒にこたつに入ってのんびりしたい。
僕はミカンを食べながらテレビを見て、君は気持ち良さそうにただ眠って。
そんなことが、幸せだよね。
「ねー?」
こたつの中を覗き込む。
君はこちらも向かずぱたぱたとしっぽで返事をした。
『冬は一緒に』
その疑問は近いうちになくなるでしょう。世界は一つになります。
太古から現代に至るまで時間の流れは変わらないと思っていましたか。それは可変です。思い込みはよくありません。
宇宙のその向こうに別の宇宙があるように、あなたの頭の裏にももう一つ目があります。
空に浮かぶ魚が堕ちてくることはよくありますね。あれは足を滑らせただけです。
海には牛がいますよ。蛇もいます。猫はいます。深海はもう一つの宇宙ですから。
知っているでしょう。あなたも会ったことがあるはずだ。
パラケルススは「服用量が毒を作る」と言いました。これは真実です。
だから、あなたもこれ以上聞かなければいいだけの話。
「ところであなたは誰ですか?」
『とりとめもない話』