川柳えむ

Open App
11/24/2023, 10:33:53 PM

 セーターを着た。……暑い。
 わかっている。天気予報を見なかった俺が悪い。
 でもまさか、この季節に20℃を超えるなんて誰が思うだろうか?
 たしかに朝起きた時、いつもよりなんかあったかいな、とは思った。しかし、いくらなんでも上がり過ぎでは? 一応もうすぐ12月なんだが。
 失敗したなぁ。明日は気を付けよう。

 ……で、なんで今日は寒いの?
 まるで夏と冬を反復横跳びしているようだ。
 今日こそセーターを着れば良かった。そう頭を抱えても寒さは変わらない。仕方ないからコート買うかぁ。しかし、いきなり変わり過ぎでは?
 失敗したなぁ。明日は、明日こそは気を付けよう。


『セーター』

11/23/2023, 10:47:52 PM

 落ちた。
 深い深い穴へ、転げて落ちていった。
 僕は何の為に生まれてきたのだろうか。僕は、僕の生きる意味を見つけたかった。少なくとも、きっとこの今の状況に陥る為ではなかった。そんな、考えてもどうしようもないことを考えてしまう。
 そうやって、永遠とも思えるような長い闇の中を落ちていく。
 どうしようもないことはわかっている。でも、本当はこんなところで諦めたくない……。

 深くて暗い底まで落ちた。
 ……そう、これ以上下なんてなかった。
 視界が開けた。
 そこには、思っていたよりも綺麗な世界が広がっていた。


 穴の中では綺麗な歌声が響いている。
 ふと見上げると、僕が落ちてきた穴から、僕を落とした張本人が落ちてきた。
 そいつも、この状況を見て驚いていた。
「ねずみ!?」
 そこはねずみの世界だった。
「おじいさん、おむすびをありがとう」
 ねずみはおむすびである僕を捕まえた。そして、僕はちゃんとねずみに食べてもらえた。安心した。
 僕を落とした張本人のおじいさんは、僕をねずみに与えたお礼に、なんか小槌を貰っていた。
 それ、1番体を張った僕が貰うべきでは? まぁもう食べられしまっているし、僕自身の役目は全うできたからいいんだけど。

 僕はわかった。
 諦めたらそこで試合(?)終了だ。どんなに闇に落ちようと、その先には素敵な未来が待ち受けていることもあるんだと。
 僕は役目を果たせて。ねずみは僕を美味しいって言って食べて。なんかおじいさんも幸せになったみたいだし。
 めでたしめでたし。


『落ちていく』

11/23/2023, 4:00:47 AM

 たぶん僕らは、ずっと昔から、こうやって二人一緒だったんだと思うよ。
 僕らが産まれる前、きっと前世とか、もしかしたらそれよりもっと昔から。そんな気がするんだ。
 前はどんな関係だったのかな? 親子とか、双子とか?
 でも、この人生、他人として産まれて良かったって心から思ってる。
 だからこそ、今、こうやって一緒にいられる。
 これからもよろしくね。僕の一番大切な人。


『夫婦』

11/21/2023, 10:35:23 PM

 上手くやってきたはずなのに、どうしてこうなったの?
 間に挟まれる私。
 でも私は悪くない。誰かに優しくすることの何が悪いの? 嘘なんか吐いたことない。勝手にあなた達が勘違いしただけじゃない。
 大体、仮に二人と付き合ってたとして、何か悪い? 二股がいけないなんて、人間が勝手に決めた倫理観じゃない。
 でも、さすがに刃物が出てきちゃ、焦るしかない。
 どうすればいいの?
「もうどうでもいい」
 そう言ったあなたは、手に持ったそれを振り下ろした。


『どうすればいいの?』

11/21/2023, 5:59:48 AM

 ようやく辿り着いた。トレジャーハンターの彼等三人組がずっと探し求めていた地へ。長い旅路を経て、今、夢のような光景が目の前に広がっている。

「すげぇ……」

 思わず息を呑んだ。
 洞窟の最深部、まさしく宝の山がそこにあった。
 長い年月を感じさせる錆び付いた大量の金貨やくすんだ宝石、装飾品が、天井から漏れる日の光に照らされきらきらと輝いている。
 一人の男が駆け出して宝の山にダイブした。
 とうとう見つけた。手に入れたんだ。夢にまで見たお宝を。
 それを、仲間の女は驚いた様子で、もう一人の仲間の男は「こいつは全く仕方ないな」と言った表情で見ていた。

「でもさ」

 宝の山に埋もれたまま、男が呟く。

「本当の宝物は、ここまで一緒に冒険に付き合ってくれたお前らだって、俺は思ってるよ」

 その言葉を聞いた仲間も、言った本人も、照れくさそうに笑った。
 宝の感触をしばらく堪能してから起き上がり、よくよく辺りを見渡してみると、宝の山の向こう側に台座のような物があった。その上には、宝箱が置かれている。
 まるで引き寄せられるのように台座のへと向かい、正面に立つと宝箱をよく見た。細かい装飾が施された美しい宝箱だ。
 ふと視線を落とした。
 その瞬間だった。
 背中から胸を貫き、衝撃が走る。真っ赤な血が吹き出ている。
 振り返ると、仲間達が彼を見ていた。真っ赤に染まった仲間愛用のダガーを手にして。
 何故かと問う間もなく、彼は倒れた。

「俺達が宝だって言うならさ、ここの宝は俺らに譲ってくれよ」
「鬱陶しかったのよ。トレジャーハンターのくせに、あなたのその博愛精神や正義感が」

 何かを言おうとしても、口からごぼごぼと血が溢れ、言葉にならない。
 仲間の男が宝箱に手を伸ばした。

 ……やめろ……――危ない、それは罠だ!

 次の瞬間、大きな音を立て、地面が割れた。驚いて足下を見る。視線の先には、人を今にも飲み込もうと待ち構える、巨大なワニがうじゃうじゃといた。

「うわああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「キャ――――――――ッッ!」

 三人仲良く床下へ落ちていく。
 男は体から血を流しながらも最期の力を振り絞り、二人を抱き抱えると急いで鉤縄を宙に向かって投げた。

「…………後……は、頼っ……」

 そう言い残し、仲間が縄を掴んだことを確認すると、安心した表情で落ちていった。
 そしてようやく、仲間達は本当の宝物がどんなものなのか気付いたのだった。


『宝物』

Next